児童虐待、「信じられない」では見えない現実

レビュー

2
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

児童虐待から考える

『児童虐待から考える』

著者
杉山春 [著]
出版社
朝日新聞出版
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784022737434
発売日
2017/12/13
価格
821円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

「信じられない」では見えない現実

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)

 実の親による子どもの虐待死事件が、年に何回も報道される。テレビ番組のコメントは「信じられない。人間のすることではない」の一点ばり。「こんな親は人間の仲間ではなくて鬼畜だよ。われわれ人間の世界はこれまでと変わらないよ」と言い合うだけなのだ。子どもを虐待した親を人間世界から切り捨てて自分たちだけ安心するなんて、ひどい欺瞞である。

 もう少し実際的にものを考えたい。杉山春の『児童虐待から考える』は、「厚木男児遺体放置事件」のルポからはじまる、児童虐待事件論だ。男児の母親は去り、トラック運転手である父親が、ガスも電気も水道も止まったゴミ部屋の雨戸を閉めきり、暗闇のなかに幼児を監禁して死なせた。残酷で自分勝手な父親のやったこととされた。

 しかし著者によれば、この父親は多重ハンディキャップのある人である。軽度知的障害により未来の見通しが困難なことや、自分自身も周囲から孤立した家庭で精神疾患のある母親に育てられたことなどだ。子育ての目標や理想も、幸福な家庭の思い出もない人が、人目の届かない密室で幼児を育てたら、虐待の可能性は限りなく高まる。

 かわいそうな犯人だから情状を酌量すべきだとは思わない。だが、人は普遍的に、こうした条件下で単独育児をしたら虐待をする、子どもが苦しみぬいて死ぬという「常識」を社会で共有すれば、悲劇を未然に防げるかも。この本は、現実を見る手助けになると思う。

新潮社 週刊新潮
2018年2月1日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • このエントリーをはてなブックマークに追加