『漫画 君たちはどう生きるか』
- 著者
- 吉野源三郎 [著]/羽賀翔一 [イラスト]
- 出版社
- マガジンハウス
- ジャンル
- 社会科学/社会科学総記
- ISBN
- 9784838729470
- 発売日
- 2017/08/24
- 価格
- 1,430円(税込)
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往年の名著を「新しい名作」へ鮮やかによみがえらせた企画力
[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)
「勉強になるからコレを読め」なんて親や先生から頭ごなしに言われると、かえってそっぽを向きたくなるのが人の常。そうしてついつい読み逃してしまった本が誰の胸にもあるのでは?――まさにそうした眠れる名著のひとつを、コミカライズという手法で鮮やかに呼び覚ましたのが『漫画 君たちはどう生きるか』だ。発売から5カ月で19刷135万部と、破竹の勢いで売れ続けている。
吉野源三郎による原作が刊行されたのは、実に80年前のこと。15歳の主人公が叔父さんとの交流を通じて精神的成長を遂げていく――その内容は確かに普遍的だが、当時を全く知らない世代が文字だけで風景を想像するには難しいところがあるのもまた事実。「今の時代にフィットした伝え方はないものかと考え、漫画にしてみたらどうだろうと思いついたんです」と企画立案者の鉄尾周一氏は話す。
時代背景やストーリーの大枠は変えない代わり、平成生まれの子供たちにとっても違和感のないよう、大小さまざまなチューニングを施した。そのひとつが構成。現代人にはピンと来ないエピソードをカットし、原作のクライマックスに当たる部分を導入に持ってくることで読者が作品世界に入り込みやすくした。
もうひとつ、重要な点がキャラ造型だ。「もともと原作で主人公に助言を与える役が“叔父さん”なのは、例えば“父親”のように直接的な親子関係だと力が垂直に働きすぎてしまい、反発心を引き起こしかねないからなんですよね。とりわけ今の子供たちは“上から目線”に敏感。そこで漫画を描いてくれた羽賀翔一さんに相談し、隣に寄り添ってくれるような叔父さん像になるよう工夫してもらったんです」(鉄尾氏)。
具体的には、叔父さんの肩書を作者の吉野源三郎と同じ編集者に変更することで、彼自身の人生を想像しやすい形にした点に加えて、主人公と同様に考え、時に悩む場面を強調して取り入れた。結果、主人公以外のキャラが立ち、幅広い世代がそれぞれの立場から感情移入できる「新しい名作」が出来上がったわけだ。