[本の森 ホラー・ミステリ]『分かったで済むなら、名探偵はいらない』林泰広/『カーテンコール!』加納朋子/『風神の手』道尾秀介

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[本の森 ホラー・ミステリ]『分かったで済むなら、名探偵はいらない』林泰広/『カーテンコール!』加納朋子/『風神の手』道尾秀介

[レビュアー] 村上貴史(書評家)

『分かったで済むなら、名探偵はいらない』(光文社)は、林泰広の久々の一冊。石持浅海や東川篤哉とともにKAPPA―ONE登龍門から初の著書である長篇ミステリ『The unseen見えない精霊』を発表してそのセンスを世に示したのが二〇〇二年のこと。本書は、実にそれ以来の著作なのである。

 今回の作品は、居酒屋「ロミオとジュリエット」で一人酒をたしなんでいる刑事が、その場で耳にした謎を解くというスタイルの連作ミステリだ。浮気夫を撲殺してしまった妻の衝動、いんちき超能力者となんちゃってサイキック・バスターの対決など、七つの謎を刑事は解く羽目になる。その謎の外観と真相との間に相当の飛躍があることが、まず本書の魅力だ。それに加えて、居酒屋の名前でもあるシェイクスピア作品に関する七つの知識や解釈が披露され、それぞれがその名作に関する読者の思い込みを否定する妙味があり、しかも、その妙味を梃子として刑事が謎を解くひねり技も披露される。十五年が経過してもセンスは色あせていないことを示した良作なのだ。不敵なエピローグも気に入った。

 加納朋子『カーテンコール!』(新潮社)も連作短篇集。経営難で大学が閉校になるため、学校側は卒業へのハードルを極限まで下げたのだが、それでも卒業できない者たちがいた。そんな連中の卒業への救済措置として、半年間の補習が行われることとなった。その補習は、外界から遮断された環境において、共同生活を営みながら進められる。そんな生活のなかで、それぞれの学生の“事情”が見えてくる……。

 ミステリ作家ならではの技巧がさりげなく活かされた作品集である。洗練にして熟練。技巧を駆使して読み手の目を開かせ、心を刺激することで、登場人物たちの悩みが読者にくっきりと伝わってくる。朝起きられない学生や、ガリガリにやせた学生などの面々が、この半年間でどう変わるのか。学舎の青春小説であり、そして明確にミステリである。いずれの面でも上質。

 遺影専門の写真館のある街を舞台にした道尾秀介『風神の手』(朝日新聞出版)もまさに練達の筆による一冊。こちらは三つの中篇とエピローグ的な短篇一つという作品集だ。第一章では夜の鮎漁をモチーフに、二十七年前の恋心と殺意、そしてその想定外の顛末が描かれる。続く第二章では小学生コンビの冒険が、さらに第三章ではある脅迫事件が語られる。そしてこの三つの物語を併せ読むことで、巧妙にちりばめられたエピソードの数々が結びつき、それぞれがまた別の意味を持つことを知り、そして一陣の風が多くの人生にどんな影響を与えたか見えてくるのだ。いや上手い。上手いうえに心に刺さる。最後の短篇含め、いい物語を読ませて戴いた。感謝。

新潮社 小説新潮
2018年2月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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