『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』
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<東北の本棚>絶対王者 高度な技凝縮
[レビュアー] 河北新報
9日に開幕する平昌(ピョンチャン)冬季五輪のフィギュアスケート男子に出場する仙台市出身の羽生結弦選手(ANA、宮城・東北高出)。羽生選手は昨年11月に右足首を痛めたが、2014年のソチ冬季五輪に続く金メダル獲得に期待がかかっている。「絶対王者」の強さの秘密や進化の過程などを、無類のフィギュアスケート好きのエッセイストが丹念に紹介する。
羽生選手は15年12月に2種類の4回転ジャンプを駆使して、世界歴代最高の合計330.43点を出した。その後もレベルアップを図り、全ての要素で驚異的な水準を誇るスケーターとなった。
本書では羽生選手のすごさについて、スピードに乗って軽やかに滑るエアリー感や美しさ、トランジションのレベルの高さなどを筆頭に挙げている。トランジションとは、難しいジャンプを跳ぶ前に盛り込むステップやターン、技と技の間に入れるエッジワークなどを指す。羽生選手は4回転を跳ぶときの助走も「漕(こ)ぎ」がせいぜい3回と少なく、高難度のエッジワークを駆使しながらスピードを上げていく。
軽々と滑っているように見える中に、実は高度な技術が凝縮されており、羽生選手の卓越したスケーティングを浮き彫りにする。常にプラスアルファを求め、具現化してきた羽生選手の心技体の成長ぶりを代表的なプログラムをたどりながら、きめ細かく解説した。
羽生選手以外にも、宇野昌磨やハビエル・フェルナンデス(スペイン)、ネーサン・チェン(米国)、エフゲニア・メドベージェワ(ロシア)、宮原知子、樋口新葉ら男女の15選手の魅力も分析。五輪の観戦が堪能できる工夫を凝らしている。
フィギュアスケートの用語解説や技術、芸術性、歴史などにも言及し、競技の魅力を多面的に取り上げている。
集英社03(3230)6080=821円。