ミステリ、SF、ホラー。いろんな形で繋がる女と女

レビュー

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女同士の関係もいろいろ 現実に風穴を開ける短編集

[レビュアー] 石井千湖(書評家)

 女同士はドロドロしている、みたいな固定観念を木っ端微塵に粉砕してくれる短編集だ。ミステリあり、SFあり、ホラーあり。いろんな形で女と女が繋がる。

 自分に似合う一人称が見つからないことに悩む会社員がアメリカ育ちの大学生と話して衝撃を受ける「小桜妙子をどう呼べばいい」、ある御殿のようなお屋敷に勤めていた老女が久しぶりに会うお嬢さんを待つ「ばばあ日傘」、たまたま同じ場所に居合わせた二人の外国人女性が〈いい街〉について語り合う「東京の二十三時にアンナは」など二十三編を収録。栃木弁のガールズトークが可笑しくも切ない「友人スワンプシング」のように鮮度の高い口語を取り入れた文章は、登場人物を生き生きと動かす。

 なかでも印象深いのは「SameSex,Different Day.」。朝子と茉那美は相思相愛なのにセックスできない。なぜなら二人とも自分が抱くほうだと思っているからだ。性器を挿入しないので、どちらが抱くとか抱かれるとか行為による区別はつけがたいのだけれど、抱きたいという意志だけは明確にある。それってどういうことなのかと彼女たちは議論する。〈あーさん抱きたいけど、抱かれてるあーさんが我慢してるなーって思ったらもうそこで萎える。あ、この『萎える』も謎ですよね。どこが萎えんだ。萎えるとこないわ〉という茉那美のセリフに笑ってしまう。二人は相手に合わせようと努力しつつ、正直に自分の気持ちを伝え、決して無理しない。恋が終わる物語でありながら悲しくないのは、お互いの欲望を尊重しているからだろう。自己犠牲のない純愛といおうか。結びの一文も美しい。

 他の収録作も、女は受け身でなきゃいけない、きれいでなければいけないといった抑圧を跳ね返すパワーに満ちている。引きこもり女子がムダ毛を伸ばして思いがけない変身を遂げる「ファー・アウェイ」なんて最高。息苦しい現実に風穴が開く。

新潮社 週刊新潮
2018年2月8日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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