『赤いオーロラの街で』
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『華竜の宮 上』
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超巨大太陽フレアと災害小説の新しい形
[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)
太陽フレアって、磁気嵐が発生するやつでしょ。電磁波の影響でスマホやパソコンが壊れたり――とぼんやり思ってたら、これは大きな誤解。確かに通信衛星とかには影響が出るが、地上で想定される一番の被害は、電線に大電流が流れて変電所の設備が故障することらしい。実際、89年3月の巨大フレアはカナダで大停電を引き起こし、600万人に影響したとか。では、もし今、千年に一度クラスの超巨大フレアが地球を襲ったら――というあり得べき事態をリアルに描くのが、伊藤瑞彦(みずひこ)のデビュー長編『赤いオーロラの街で』。
普通なら災害パニックサスペンスになりそうだが、主人公は仕事に疲れたプログラマー、舞台は自然豊かな知床の斜里町とあって、パニックともサスペンスともほぼ無縁。昨年のハヤカワSFコンテスト最終候補作ながらSF度も低く、数年に及ぶ世界規模の大停電をどうやってしのぎ、文明を維持するかが焦点になる。その意味では、“3・11以後”にふさわしい復興小説と言うべきかもしれない。
こうした巨大災害ものでは小松左京『日本沈没』(73年)が代表格だが、安生正『ゼロの激震』(宝島社文庫)はその現代版。ただしここでは、主人公(大手ゼネコンを退社した元土木技術者)が巨大な天変地異に土木技術で立ち向かう。敵は関東地方を南下してくる火山性事象。マグマの活動を放置すれば、日本どころか世界が滅びかねない。計画の成否やいかに?
一方、上田早夕里『華竜の宮』(ハヤカワ文庫JA、上下巻)は、変貌した未来を背景とする災害SF巨編。世界の大半が水没し、人口が激減した25世紀、残された人類は、わずかな陸地(及び海上都市)にしがみつく陸上民と、遺伝子改変で海に適応した海上民に分かれている。主人公は、群島と化した日本の外洋公館に勤務する外交官。陸上民と海上民の対立を解消すべく、海上民のオサとの会談に臨む。だが、地球は人類にさらなる試練を与えようとしていた……。絶望的な状況下でも最善を求めて努力をつづける人々のドラマが胸を打つ。