村上春樹はいつの日か野間文芸賞を受賞できるか――〈トヨザキ社長のヤツザキ文学賞〉

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村上春樹はいつの日か野間文芸賞を受賞できるか――

[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)

 読売文学賞、谷崎潤一郎賞、野間文芸賞。純文学のベテラン作家に与えられる、この三大文芸賞のうち、もっとも古い歴史を持つのが野間文芸賞です。講談社の初代社長・野間清治の遺志によって設立された財団法人が主催する賞で、創設されたのは一九四一年。当初は個人の業績に授与されていましたが、戦後一時中断の後、五三年からは中堅以上の作家の小説や評論作品に与えられる賞になりました。副賞は文学賞の中でも破格の三百万円(第四十一回までは二百万円)。

 歴代受賞作は素晴らしい作品ばかりですが、不思議なことに村上春樹がいまだに受賞しておりません。春樹といえば、講談社が発行している文芸誌「群像」の新人賞を『風の歌を聴け』で受賞してデビューしているわけで、いわば可愛い自社出身作家です。にもかかわらず、いまだに受賞に至っていないのは、なにゆえ? このあたりの事情、なんか臭うと勘ぐるのはわたしだけでありましょうか。

 さて、この野間文芸賞と同時に創設されたのが、新人を対象にした野間文芸奨励賞なのですが、一九四五年以降長らく中断されており、七九年に野間文芸新人賞として再開。で、七九年といえば村上春樹のデビュー年。実際、その栄えある第一回にノミネートされはしたのですが、受賞作は津島佑子『光の領分』

 その後、第四回にして『羊をめぐる冒険』で受賞できたのは、めでたしめでたしなんですが、この野間文芸新人賞は別名「残念芥川賞」と呼ばれているんです。つまり、芥川賞をとるべき実力の持ち主であり、なんなら実際の受賞作より優れている作品を書いているのに、なぜか受賞に至っていない作家を表彰するという機能が(外野からの勝手な見立てですが)、この新人賞にはあるのです。実際、春樹はついに芥川賞を受賞しなかったわけで。

 最新の野間文芸賞受賞作は高村薫『土の記』、野間文芸新人賞は今村夏子『星の子』高橋弘希『日曜日の人々(サンデー・ピープル)』。いつか春樹が野間文芸賞を受賞する日は来るのでしょうか。文学賞雀にとっては、それが最大の関心事だったりもします。

新潮社 週刊新潮
2018年2月8日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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