全世界1億8000万部突破「グレッグのダメ日記」シリーズ訳者・中井はるのさんが語る海外児童書の楽しみ方

インタビュー

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グレッグのダメ日記 にげだしたいよ!

『グレッグのダメ日記 にげだしたいよ!』

著者
ジェフ・キニー [著]/中井 はるの [訳]
出版社
ポプラ社
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784591156223
発売日
2017/11/15
価格
1,296円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

全世界1億8000万部突破「グレッグのダメ日記」シリーズ訳者・中井はるのさんが語る海外児童書の楽しみ方

[文] 野本由起

中井はるの
訳者・中井はるの

全世界で大ヒット中、「グレッグのダメ日記」シリーズの最新刊が発売されました。『グレッグのダメ日記 にげだしたいよ!』は、南の島へ家族旅行に出かけたグレッグ一家のドタバタ日記。空港までの道のりからリゾート地を脱出(?)するまで、ハプニング続きの旅行記がつづられています。

翻訳を手掛けるのは、『13階だてのツリーハウス』のシリーズでおなじみの中井はるのさん。本書の見どころ、海外児童書に触れる楽しさについて語っていただきました。

子どもの等身大の日常を生き生きと描き、全世界で大ヒット!

――「グレッグのダメ日記」シリーズは、中井さんがポプラ社に翻訳の企画を持ち込んだそうです。この作品との出会いについてお聞かせください。

『グレッグのダメ日記』は、もともとブログからスタートしているんです。作者のジェフ・キニーさんがカレンダー形式のサイトに、グレッグの日記を更新していて、アクセス数もものすごい数でした。それがニュースになり、3年後には書籍として出版されました。ブログの頃から読者数も非常に多かったので、アメリカではあっという間に100万部を軽く超えていきました。本を持ち込んだころ、すでにニューヨークタイムズの児童書部門ベストセラーランキングでも、何週にもわたってずっと1位。児童書とはいえアメリカでは大人も読むくらいの大人気だったので、これは日本にも紹介したいと思い、ポプラ社にぴったりだと思って、最初の編集担当になった方に迷わず提案。その後、ポプラ社の社長に会う機会があり「出版しないと絶対に損します!」と、ものすごい熱意で進言しました。

――なぜそこまでヒットしたのでしょう。どんな点に面白さを感じましたか?

『グレッグのダメ日記』は、どこにでもいそうな子どもの等身大のお話なんですよね。例えばママから無理やり本を読むように押し付けられたり、お兄ちゃんや弟にいじわるされたり、おこずかいをかせごうとしたりというような、身近な出来事が生き生きとつづられています。笑いながら翻訳するくらい。また、グレッグが作った漫画のキャラクターが面白くて「このキャラクターはこういう名前がいいな」とか、すぐに湧いてきました。翻訳をしていると、時折このように“降ってくる”ことがあるんですよね。これはまさに“降ってきた”作品。

――翻訳にあたって、苦労したことはありますか?

先ほども話したのですが、ネーミングはするっと出てきました。固有名詞や造語で工夫が必要だったのは、「zoo-weemama!」と「Creighton the Cretin」です。「zoo-weemama!」は、特に定訳のない作者の造語です。「とんでもないことが起きちゃった」という意味合いなのですが、「ほりゃマンマたいへーん」としています。「Creighton the Cretin」は、作者の作った固有名詞で、ストレートに訳すより面白くとしたいと思ったので「くるくるクレイトン」にしました。

翻訳は固有名詞や造語で工夫
翻訳は固有名詞や造語で工夫

――どちらも思わず口にしたくなる、楽しい語感ですね。

ありがとうございます。苦労したことといえば、2巻目以降になると、キャラクターが増えて親戚も続々と登場します。「どちらの方のおじいさんだろう」とか、親族の関係性に悩みながら訳していきました。

「ミリタリースクール」という言葉も、悩みました。グレッグがあまりにもとんでもないことをするので、パパが「ミリタリースクールに入れちゃうぞ」と言うのですが、日本にはミリタリースクールがありません。そこで「規律の厳しい学校」にしました。

――日本にはない文化だと、翻訳の際にも工夫が必要になるんですね。

そうですね。文化の違いで言うと、表紙のグレッグのイラストも日本版は若干違うんです。海外版の2巻の表紙は、グレッグの指が4本。日本版では、5本に描き直しました。

――中井さんが特にお好きなキャラクターは?

末っ子のマニーがいちばん好きです。お兄ちゃんたちよりも、機転がきいちゃったりするところがいいんですよね(笑)。ずる賢いけれど末っ子なので、パパもママも「マニーのやることだからしょうがないよね」とワガママを許してしまう。そのとばっちりをお兄ちゃんたちが受けるんです。ジェフさんには、ぜひマニーを主人公にした話を描いてほしいです。

ちびっこクラブ
ちびっこクラブ

ほかのキャラクターも、どこかにいそうですよね。親友のロウリーはお坊ちゃんですし、フレグリーは人に鼻くそをつけたがるような変人(笑)。グレッグとお兄ちゃんが、どっちがマニーの面倒をみるかを押し付けあうかけひきも、兄弟間ではよくありそうな話です。もしかしたら読者は、海外のお話だとあまり意識せずに読んでいるのかもしれませんね。家族間、兄弟間のお話は世界どこでも共通ですから、同じ目線でグレッグたちを見ているような気がします。

普段本を読まない子も、「グレッグ」ならスルスル読める

――読者は、グレッグと同年代の男の子が多いのでしょうか。

読者イベントを開いた時には、男女半々でした。普段は本を読まない子も『グレッグのダメ日記』なら読んでくれるという意見も聞きます。読書の楽しさを知るきっかけになってくれたら、うれしいですね。

――そうですね。普段本を読まないお子さんにも支持されたのは、なぜだと思いますか?

やはり絵が同時進行で入っていることだと思います。文章もかなり読みやすいですよね。グレッグのセコさ、ずるさまで包み隠さずストレートに書いているので、親しみやすさもあります。お子さんが「自分と同じだな」「僕もやってみたい」と感じるのではないでしょうか。

――グレッグはいわゆる「良い子」ではないので、真似をされたら困るという親御さんもいるかもしれません。

そうでしょうか。あまり酷いことはしていないなぁと思いますが……。グレッグのやることって、子どもの気持ちがストレートにでた上での行動です。真似をしたとしても、子どものすることなのでそれほどではないと思います。少々のイタズラでしたら「やったな」と笑ってほしい。よほどのことでなければ、柔軟な気持ちで見守ってほしい。これはグレッグの話から反れますが、悪いことをしたら親として叱ることも必要なので、その辺りの判断は“自分育て”“親育て”だと思って子どもに付き合ってほしいです。それに、グレッグを親子で一緒に読んでいたら、子どもは簡単には真似をしないような気がします。グレッグは叱られてばかりですからね。

――なるほど。確かにそうかもしれません。大人が「グレッグのダメ日記」シリーズを読むと、子どもの気持ちがわかるようになるといったこともありそうです。

大人にも笑ってもらえるお話です。読んでみて、ぜひ子ども時代を思い出してほしいですね。作者のジェフさんが体験したことがベースになって書かれています。この話を読めば、親子の会話が増えるのではないでしょうか。現に、子育てをしているお母さんから「グレッグは面白い、そしてかわいい」という話をよく聞きます。

大人の世界も、厳しいことがあって大変。そんな時に心をほぐしてくれるのは笑いです。この本が癒しになり、子どもの頃の自分を思い出すきっかけになり、親子の会話につながってくれたらいいと思っています。

――では、最新刊『グレッグのダメ日記 にげだしたいよ!』の見どころをお願いします。

今回は、家族みんなでやらかしてしまいます。最後のシーンまで読んでください。そして、リゾート地の楽しみ方を学んでください(笑)。

最新刊『グレッグのダメ日記 にげだしたいよ!』より
最新刊『グレッグのダメ日記 にげだしたいよ!』より

翻訳書は世界への扉 幼いころから世界観を広げてほしい

――ここからは、児童書全般のお話についてうかがいます。中井さんは、お子さんが生まれてから児童書の翻訳を始めたそうですね。

そうなんです。娘が生まれる前から、胎教にいいかなと思ってお腹の子に絵本を読み聞かせていました。アメリカで買った英語の絵本も読んでいましたが、日本語の絵本をいざ本屋さんで探してみると意外と「これだ!」と心に刺さる絵本が見つからないんですよね。結局は自分が子どものころに知った本から娘に。自分の原点に戻って、『おさるのジョージ』や石井桃子さん、瀬田貞二さんが訳された児童書を読んでいました。

そうこうするうちに、「もっと良い本を探してみよう」と自分で勉強を始めるようになりました。娘に読み聞かせするよりも自分のほうがハマってしまって……。児童書の翻訳の勉強会に参加したり、絵本作家のアシスタントをしたり、絵本を読む機会も増えていったんです。もちろん、娘にも毎晩読み聞かせをしていました。当時は『ガンピーさんのふなあそび』『ルピナスさん』、『ゼルダと人喰い鬼』などが好きでしたが、娘は『わたしのワンピース』『悪たれラルフ』が好きでした。

でも、いざ自分で訳してみると棒読みのようにぎこちないんですね。改めて、「児童書は、ただ訳すだけじゃダメなんだな」と気づきました。子どもが読んで心に残るものにしなければならないし、絵本には良い言葉を残すという使命があります。そこで、児童書の勉強会に参加し、すでに出ている児童書を読み、翻訳してみるという作業を続けていきました。それを5、6年続け、下訳や共訳の仕事もして、初めての翻訳本を出すことに。『グレッグのダメ日記』は、2冊目の翻訳でした。

――ひとつひとつ言葉を磨き抜いて、訳文を作っていくんですね。

子どもの好奇心や想像力を掻き立てる文章にしたいと思っています。翻訳したものは、何度も自分の声で読むようにしています。また、ほかの人にも読んでもらい、引っかかったところがないかアドバイスをもらうことも。絵本に限らず、読み物もすべて音読します。そのうえで、読みにくいところを直していくんです。

――子どもが海外の児童書を読むことに、どのような意義があると思いますか?

日本にも素晴らしい作家さんがいらっしゃいますが、描かれるのは国内のことです。海外の翻訳書を読むことによって、子どもの世界観が広がるのではないでしょうか。海外のニュースを見て世界のことを知り、日本が変わることもあります。同じように、海外の人が書いた作品を日本人が読むことで、「こういう世界があるんだ」と知ることができますよね。作家の育った環境、見ている風景が違えば、作品にも違いが表れます。異なる文化を知ることが、子どもの情緒、考え方に大きな影響を与えるのではないかと思います。

また、海外の作品はスケール感が違いますよね。小学生高学年、中学生が読むような壮大なファンタジーは、海外の作品でなければ読めない世界観です。こうした上の年代の子どもが翻訳書に親しむには、小さい子でも楽しめる翻訳書も必要だと思っています。

――翻訳書を読むことで、自然と視野が広がるんですね。

そうです。日本という国は、世界中の国々と一緒に成り立っています。日本の中だけで生活している人でも、世界の影響は受けています。世界について知るきっかけとして、翻訳書は絶対に必要だと思います。

――今の時代、世界の人々と触れ合う機会も増えていきます。ますます翻訳書の需要も増えそうです。

とはいえ、翻訳書の出版点数は減っています。児童書に限らず、大人向けの翻訳書も減っていて。それでも、優れた翻訳書を刊行することが大事ではないかと思います。

世界について知ると、文化の違いがわかります。その一方で「国は違うけれど同じような気持ちを抱くんだな」「自分と似たところがあるな」と感じることもあるでしょう。翻訳書を通じ、そう気づくことが大事だと思っています。

ポプラ社
2018年2月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

ポプラ社

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