<東北の本棚>村にも情報の集積基地

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図書館と江戸時代の人びと

『図書館と江戸時代の人びと』

著者
新藤 透 [著]
出版社
柏書房
ISBN
9784760148776
価格
2,808円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

<東北の本棚>村にも情報の集積基地

[レビュアー] 河北新報

 木版技術の発達で書籍の出版が盛んになった江戸時代中期、武士や貴族、庶民までもが書物を集めた施設に足を運んで読書を楽しんでいた。「公共図書館」の概念が西洋から導入される明治時代の前から、日本人には身分を問わず本に親しむ習慣があったのだ。本書は江戸時代の図書館を中心に、人々がどのように書物に触れてきたかを探った。
 中世まで読書は僧侶や貴族、武士の文化だった。「文庫」と呼ばれる私設図書館には主に政治や学問研究のための実務書が集められていた。
 本の収集や貸し出しといった機能が現代の図書館に近づいたのは、江戸幕府3代将軍・徳川家光が江戸城に「紅葉山文庫」を整備してから。初代家康の蔵書をベースに公文書や海外の書物などを加えた施設で、家臣や他藩への貸し出しも行われていた記録が残る。武士の子弟を教育する各地の藩校にも文庫が設けられ、学校図書館の役割を担っていた。
 一方、庶民は都市部にある貸本屋や数万巻もの書籍を持つ文人「蔵書家」から本を借りた。農村部にも有力者が書物を集めた「蔵書の家」があり、村人に開放された。娯楽や農業技術、政治と多岐にわたる情報を地域で共有したという。
 誰でも利用できる公共図書館のシステムを日本人が抵抗なく受け入れたのは、各階層で「情報の集積基地」を形成していたからと言える。本を大切に利用する文化を豊富な事例と共に紹介した良書だ。
 著者は1978年埼玉県生まれ。山形県立米沢女子短大国語国文学科准教授。専門は図書館情報学、歴史学(日本近世史)。
 柏書房03(3830)1891=2808円。

河北新報
2018年2月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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