【写真集】『border | korea』菱田雄介

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

【写真集】『border | korea』菱田雄介

[レビュアー] 篠原知存(ライター)


菱田雄介写真集『border  korea』

 ■似て非なる二つの国

 かつて同じ国だった異国。北朝鮮と韓国で撮影した写真を、見開きの左右ページに並べる手法で、「分断」が人々にもたらしている現実を描き出す。

 状況や構図が似たものをペアに組んでいるから、見る側はまるで「間違い探し」のように自然に相似点や相違点に視線を向ける。表紙にも使われている2人の少女の写真を例に取ると、差し込む光や背景までそっくり。だが、親和性は見かけだけで、撮影地は平壌とソウル。まったく違う社会で生きる他人で、たまたま同じ写真家の前に立ったにすぎない。

 生まれたばかりの赤ちゃん、学生、軍人、僧侶、楽団員、新郎新婦、あるいは高層住宅群、広場、海水浴場…さまざまな人々や情景が次々に対比される。わずかな違いが、絶望的な隔たりのように感じられてくる。いや、逆にこれだけしか違わない-のだろうか。

 写真家は記す。〈地図上に引かれた一本の線は、人間の運命をどう変えるのか?〉。静かな思索をもたらしてくれる秀逸なフォトドキュメンタリー。(リブロアルテ・5500円+税)

 篠原知存

産経新聞
2018年2月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク