「メシウマ」の正体を解き明かす一冊

レビュー

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やはり嫉妬こそが人の人たる情動か

[レビュアー] 小飼弾

 傲慢、憤怒、嫉妬、怠惰、強欲、暴食、色欲。ご存知七つの大罪には一つだけ仲間はずれがある。嫉妬だ。他は一人でも犯せるが、嫉妬のみは他人がいないと犯せない。傲慢と色欲も一見他者を必要とするが、人は自然に対してだって傲慢になれるし、人は一人でも欲情できる。嫉妬のみが自分以外の人、すなわち仲間を必要とするのであれば、嫉妬こそがヒトを人間たらしめる情動と言えまいか。

 他者が不幸になることによって嫉妬心が癒されたときの快感を、ドイツ語で「シャーデンフロイデ」(Schadenfreude)という。適切な語彙を持たぬ英語はそのままこの言葉を輸入したが、日本語には「他人の不幸で飯が美味い」、略してメシウマというさらにうまい表現がある。もしかしてそれはこの感情が日本人にはより快いということの傍証ではないか。同名の新書を著した中野信子の答えはYes、それも生理学的に。

 これは選者を含めメシウマ不感症には不都合な真実である。本人も気づかないうちに嫉妬を煽り、オカズとして狩られかねないのだから。くれぐれも嫉妬を羨望と取り違えてはならない。持てるものを見てオレも欲しいという羨望はオレさえ手に入れればいいという点で独善的だが、その独善を罰するのが嫉妬なのだから。「金持ちを貧乏にしても貧乏人が金持ちにはならない」というサッチャリズムは、嫉妬を過度に抑圧することでむしろ世界の嫉妬心に火をつけなかったか。Memento Invidia!

新潮社 週刊新潮
2018年2月15日梅見月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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