今月の文芸誌 老人小説が多い中、“清涼剤”のような17歳少年の物語

レビュー

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老人小説が多い中、“清涼剤”のような17歳少年の物語

[レビュアー] 栗原裕一郎(文芸評論家)


すばる2018年2月号

 先日の芥川賞は、新人賞をとったばかりの女性二人の同時受賞、それも50代と60代という年齢が話題だった。これも高齢化社会の一つの反映であって、文芸誌2月号(『文藝』は春号)にも老人小説が多く、老夫婦の半生を描いた作品を読み終え次の作品に移ったら、書き出しが老眼の話だったりするのでさすがに辟易した。

 そんな中、岩城けい「Matt」(すばる)が17歳になる少年を主人公に据えて清涼剤のようだった。とはいえ苦い物語である。

 Matt(マット)とは主人公の少年・真人が自称するもう一つの名前だ。父親の都合で移住したオーストラリアで暮らす真人が、日本人の罪や歴史を引き受ける覚悟をしながら、同時に、日本に囚われない個人として自己を確立しようともがき抗う様を描いた成長小説である。真人がマットという別名を必要とするのはその二重性ゆえだ。日本人であることにだけアイデンティティを求めるようになる父、第二次大戦での怨みから真人にジャップと突っかかる同級生など、人物造形や設定が定型めいてはいるものの、今日的な問題を溌剌とした筆致で流し込みその枠を活かしている。

『新潮』1、2月号に分載された国分拓「ノモレ」は、アマゾンの奥地に現れた謎の先住民を追ったノンフィクションである。過去の話ではない。2014年の事件だ。本作は、先年放映され話題を呼んだNHKスペシャル「大アマゾン 最後の秘境 第4集――最後のイゾラド 森の果て 未知の人々」に基づいたもので、作者は当番組のディレクターである。先住民の視点を備えている点でこの作品は小説になっており、TV番組ではこぼれたドラマに肉薄している。

 近本洋一「意味の在処――丹下健三と日本近代」は第1回すばるクリティーク賞受賞作。選者らの評価する文体の魅力は認めつつも、偶然でしかない一致について、実証をかなぐり捨て、「奇跡だ! 祈りだ! 跳べ!」と洗脳のごとく煽り倒して結論とすり替える話術には非常に危ういものを感じた。このやり口は、構造としてはポスト・トゥルースと同型である。

新潮社 週刊新潮
2018年2月15日梅見月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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