「ほめちぎる」ことで生徒数が増加した教習所から学ぶ、ほめてやる気にさせる技術

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「ほめちぎる教習所」のやる気の育て方

『「ほめちぎる教習所」のやる気の育て方』

著者
加藤 光一 [著]/坪田信貴 [監修]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784048961073
発売日
2018/01/18
価格
1,430円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「ほめちぎる」ことで生徒数が増加した教習所から学ぶ、ほめてやる気にさせる技術

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

きょうは、『「ほめちぎる教習所」のやる気の育て方』(加藤光一著、坪田信貴監修、KADOKAWA)という書籍をご紹介したいと思います。

舞台となっているのは、三重県の南部自動車学校。もともとは“ごく普通の自動車学校”だった同校は、2013年2月から「ほめちぎる教習所」としてリニューアルされ、以来「生徒をほめてほめてほめちぎる」教習所として教習を行っているというのです。

リニューアルを発表した当時は、多くの人から反対されたといいます。ところが指導に「ほめる」を取り入れて以来、生徒数は増加を続け、免許の合格率も年々向上。そればかりか、卒業生の事故率までもが半数近くにまで減少したのだとか。

さらに注目すべきは、生徒たちによい効果が生まれただけでなく、社員たちの仕事に対するモチベーションも向上し、仕事のストレスで心を病んでしまう指導員も目に見えて少なくなったのだといいます。

私はかつて、アメリカの自動車学校を訪問した際、教習は「ティーチング(教える)」ではなく、「コーチング(導き出す)」であるというスタンスを学びました。

「なんで頑張らないの」

「言ったことが、どうしてできないんだ」

こういう言葉がつい出てしまうときは「自分が正しい」と思っているときであり、まさにティーチングの感覚です。

コーチング、「導く教え方」はこれとは異なります。

コーチングでは、一方的に物事を教え込むのではなく、相手の人格を認め、できることを認めながら、相手が成長できるように導きます。

そして、これをうまく行うために、「ほめる」が役に立つのです。南部自動車学校でも、普段ほめられていない(であろう)生徒たちが、「ほめちぎられる」ことで、めきめきと変わります。

若い人こそ、ほめて伸ばすことが効く。私は心からそう思います。(「はじめに」より)

「ほめる」ことは相手を認めること。心理学的には、他人に認められることを承認といい、「承認されたい」という願望を承認欲求と呼ぶといいます。さまざまな研究によって、承認欲求は人間のモチベーションを大きく左右する因子であることがわかっており、若い人のほうが承認の効果が大きいのだそうです。

また経営学的な研究からは、組織の人間が仕事や行いを承認されていると、組織として「パフォーマンス向上」「モチベーションアップ」「離職の抑制」「メンタルヘルス向上」「不祥事の抑制」という5つの点が改善されることも明らかになっているのだといいます。

つまり「ほめる」ことの効果は、いろいろな意味で立証されているということ。だとすれば、具体的になにをすべきなのでしょうか? そのことを探るべく、第3章「ほめる『口グセ』実践編」に焦点を当ててみたいと思います。

「すみません」を「ありがとう」に変える

「ほめる」を実践したいと思っても、現実的にはなかなかうまくいかないという方も少なくないはず。しかし南部自動車学校では「ほめる」を導入した結果、「やり方がわかれば必ずほめることができるようになる」ということがわかったのだそうです。「ほめることができない」と思っている人の多くがそう思っているだけで、実際には考え方を少し変えるだけでほめられるようになるということ。

そして著者は、ここで重要なことを指摘してもいます。「こんなことは言わなくてもわかってくれる(わかってほしい)」を理由にほめない人がいますが、それは大きな間違いだというのです。別の言い方をすれば、「言わなければわからない」ことは、世の中にたくさんあるということ。

そして最初に身につけるべきは、「ありがとう」を口グセにすることだといいます。たとえば道を空けてもらうとき、ちょっと手伝ってもらうときなどに「すみません」と言ってしまうことがありますが、ネガティブな印象のある「すみません」をやめ、ポジティブな「ありがとう」に切り替えてみるべきだという考え方。

「ありがとう」は、相手の好意を受け止める優しいほめ言葉です。

これはネガティブな言葉を言う習慣を改めることで、ポジティブな言葉を使うことに対する、抵抗感や恥ずかしさをなくしていく効果もあります。(101ページより)

教習所でも「すみません」を「ありがとう」に言い換えてもらった結果、「ありがとうに変えただけで、自分も気持ちいい」「生徒だけでなく、同僚にもやさしく接することができるようになった」など、ポジティブな反応がかえってきたのだそう。また、「すみません」のときは相手の顔を見もしなかったのが、「ありがとう」だと顔を見て言うようになり、相手も返事を返してくれるようになったといいます。

「ありがとう」には、周囲の人との関係性を改善する効果があるのかもしれないということです。(100ページより)

最高のタイミングは「すぐほめる」

「どのタイミングでほめたらいいのかわからない」とは、よく聞く悩みです。これに対する明確な回答は、「ほめられるところがあったら、すぐほめる」こと。

ほめるのが上手な人は例外なく「すぐほめ」ができる人だというのです。そのため、ほめるためにひとつ意識すべきことを選ぶのだとすれば、「すぐほめ」だと著者。

逆に、ダメな例でありがちなのが、「あとでほめよう」という考え方。「あとから」は意外にやってこないものなので、結局はほめることなく終わってしまうのです。だからこそ、ほめるところが見つかったら、すぐにほめるべきだということ。特に、初めての作業や操作の指導をしているときは、「すぐほめ」を試すいいチャンス。「ほめる機会」がふんだんにあるため、ほめやすいわけです。

なお、ほめるために難しい言葉を使ったり、美辞麗句を連ねる必要はなし。ただ、それができたことを自分がどう感じたか、さらには、その人ができるようになったことをどう思ったかを、素直に伝えればいいだけのこと。

もちろん最初はうまくことばが出てこなかったりするかもしれませんが、それでも心配は不要。つっかえながらでも、うまく言葉が出なくても、「ほめたい」という気持ちを持って話しかけていれば、その気持ちは必ず伝わるものだから。大切なのは「ほめよう」とする意思と、そのために一歩を踏み出す勇気だというわけです。(104ページより)

魔法の3S「すごい、さすが、すばらしい」

「すぐほめ」のときに言葉が出てこない人に有効な、ほめる魔法のワード「3S」があるのだそうです。それは、「すごい」「さすが」「すばらしい」

使い方は簡単で、なにかいい報告があったり、ほめるチャンスだと思うことがあったら「おお、すごい」「さすがですね」「これはすばらしい」など、シンプルなリアクションを口にするだけ。これを意識的に続けていれば、やがて、なにかいいことを耳にするたびに3Sが口グセになり、口をついて出るようになってくるといいます。そんな習慣がつけば、「いつほめよう」などと悩むことなく、いつでも「すぐほめ」ができるようになるということ。

そして3Sが自然に出るようになったら、今度は3Sのあとに「なぜならば」をつけ加えるようにするといいそうです。

たとえば部下が「○○商事と契約が取れました」と報告してきたとしたら、「おお、それはすばらしい」など、3Sのどれかを口にします。ただ、そこで終わってしまってはもったいないので、「最近プレゼンがうまくなったもんね」など、その理由をつけ加えるという簡単な方法。

相手の納得する理由づけができたら、単なる「すごい」よりも効果は大きく膨れ上がるといいます。なお、脳は意外と働き者なので、3Sを口にして「早く理由を言わなければ」と考えていれば、その理由はおのずと見つかるもの。「まずはほめよ。あとはそれから考える」でいいわけです。

むしろ大切なのは、相手の普段からの仕事ぶりをよく観察しておくこと。ほめることは、見守ること、観察することだという考え方です。それを普段から心がけておけば、ほめる言葉は自然と出てくるようになるといいます。(106ページより)

ほめるのが苦手な人に効く、ひとり練習3選

教習所で行った「ほめる」の研修のなかでも、ほめることに対して苦手意識があった指導員の間で「効果が高い」と認められた「ひとり練習」の方法があるそうです。さまざまなシーンで応用できそうなので、ご紹介しておくことにしましょう。

自分・同僚のいいところを20個書いてみる

メモを用意して、自分のいいところをかたっぱしから20個書き出し、次に同僚や身近な人についても書き出してみるということ。これは、人をポジティブに捉え、よいところを、見つけ出す目をつくる訓練だそうです。

欠点を長所に変換してみる

これは、欠点を長所としてポジティブに捉えなおす訓練。まずは身近な「物」の欠点を長所に変えるところからはじめ、慣れてきたら「人での変換」に挑戦してみるとよいそうです。特に「人」の場合は、欠点を長所に変換することが、思った以上に難しいことに気づくはず。

この変換の効果として、苦手だと思っていた人が苦手でなくなる、ということも起こるそうです。やってみると、意外とたいしたことのない欠点を自分が大げさに受け止めていたり、嫌だと思っていたところに隠れていたよいところがわかったりして、いつの間にか自分の意識や見方が変わってくるということ。

家族をほめてみる

職場で試す前に、まず家族や友人など、身近な人を相手に練習してみるのもひとつの方法。しばらく続けていれば慣れてくるので、やがてほめ言葉が口グセになっていくというわけです。

たしかに最初は気恥ずかしいかもしれませんが、その段階を乗り越えれば、大きな効果が期待できそうです。(114ページより)

自動車学校での成功例をモチーフにしているとはいえ、ここで明らかにされていることは、さまざまなシチュエーションにあてはまるものばかり。たとえば、部下のやる気を引き出すためにはどうしたらいいかと思い悩む人にとっても、きわめて有効な内容であるわけです。「ほめる」コツを身につけるために、手にとってみてはいかがでしょうか。

Photo: 印南敦史

メディアジーン lifehacker
2018年2月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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