『口笛の上手な白雪姫』 小川洋子著

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口笛の上手な白雪姫

『口笛の上手な白雪姫』

著者
小川 洋子 [著]
出版社
幻冬舎
ISBN
9784344032453
価格
1,620円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『口笛の上手な白雪姫』 小川洋子著

[レビュアー] 尾崎真理子(読売新聞本社編集委員)

案外近くの奇妙な世界

 風変わりな人物ばかり登場する短編集。作中に入り込みすぎぬよう、注意していただきたい。

 吃音(きつおん)に苦しむ男児の目の前には、ある日、小さな「ローバ」が現れる。彼女は箒(ほうき)と塵取(ちりと)りで、うまく出ないその子の声を集め始める。

 シロナガスクジラ、ツチブタ……。理不尽な目にあう「かわいそう」なものを探す子がいる。病気も忘れるほど熱心に探すのは一体、なぜ。

 廃線の計画が持ち上がった「盲腸線」に毎日、曽祖父と乗り込む幼稚園児は素直だ。秘密の任務を果たそうと、ウサギを追う二人に電車は近づく……。気がつけば体ごと物語に持って行かれ、鼓動が速くなった。

 8編のうち4編の中心人物は男の子。息苦しい世界にとらわれている彼らを救うのは、老人や年長者の「声」だ。危機を脱すれば、何事もなかったかのように彼らはそこを出て行く。が、一方の4編に出てくる女性たちはどうか。

 お針子「りこさん」の店に50年通う「私」は、今日もお祝いのよだれかけに刺繍(ししゅう)を依頼する。二人が選ぶ図案は世にも不吉な、あの花。

 赤ん坊にしか聞こえない口笛を上手に吹く「小母(おば)さん」は、もはや公衆浴場の一部と化しつつある。入浴中の母親に代わってあやしながら、彼女は一瞬、あらぬことを願う。

 いくら人々の視線にさらされようと、彼女らはいつまでもその場所に留(とど)まり続ける。ひそかに年少者に惹(ひ)かれ、赤ん坊へ惜しみなく愛を注ぎ、幸福そうですらあるのに、時折ほんの一滴、悪意の毒をどこかに垂らす。気づかぬふりをして、世界は彼女らを置き去りにする。

 もし、この作家がいなければ、かくも奇妙な物語に支えられ、私たちは大人になったことを、ずっと忘れたままだったろう。

 小川洋子という魔法使いが、見事な奇譚(きたん)を書いてくれるから、ありありと想起することができるのだ。この世界を知っている、今もそこは案外近くにある、と。

 ◇おがわ・ようこ=1962年岡山県生まれ。『博士の愛した数式』で読売文学賞、本屋大賞。

 幻冬舎 1500円

読売新聞
2018年2月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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