『琉球王国那覇役人の日記』 下郡剛著

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琉球王国那覇役人の日記

『琉球王国那覇役人の日記』

著者
下郡 剛 [著]
出版社
臨川書店
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784653043577
発売日
2017/12/22
価格
3,240円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『琉球王国那覇役人の日記』 下郡剛著

[レビュアー] 本郷恵子(中世史学者・東京大教授)

苦難越え届いた臨場感

 本書は、琉球王国の士族福地家の第6世唯紀(いき)・第7世唯延(いえん)の2代にわたって集積された日記類を分析し、その性格をあきらかにしたものである。唯紀・唯延は19世紀の王国末期に生き、いずれも那覇を管轄する役所である親見世(おやみせ)のトップ御物城(おものぐすく)をつとめた。東アジア進出の意を強める欧米各国による異国船来航が相次いだ時期で、対応の最前線に立ったのが彼ら御物城であった。

 著者は『御物城高里親雲上(ぺーちん)唯紀日記』の原本を精査して、書き直しや書き足し、行間への書入れ等が多いことに注目する。これは御物城のいわば業務日誌で、本来は役所に保管されるはずである。それが何故福地家にのこったのか?公式の保管用に清書する前の、唯紀がリアルタイムで記した下書き日記だから――というのが著者の見いだした答えである。その前提で見てみると、既定の職務である薩摩藩役人の接待や冠婚葬祭の記事のあとに、いきなり挿入符をつけて、ペリー率いるアメリカ艦隊が那覇沖に現れたことが記されている。予定調和の中の出来事と、想定外の事件とのギャップ、唯紀の動揺が、日記の紙面から臨場感をもって伝わってくるのである。

 那覇市街地の大半を焼いた1944年の十・十空襲の際、同家子孫の福地唯義氏はこれらの日記をリュックサックに押し込んで避難し、その後の疎開や転居にも帯同して守りぬいた。その後、すべての史料が1998年刊行の『那覇市史資料篇(へん)第1巻9』で活字化されたが、本書はその成果を更新し、より豊かな情報が読み取れることを示した。『那覇市史』の仕事も、実に丹念で頭の下がるものである。図書館等で目にする機会があったら、ぜひ解題だけでも読んでみてほしい。本書と併せることで、史料が幾多の苦難を乗り越えて今日に伝えられる過程、それが資料集となって多くの人に届くこと、その上に立って次の世代の研究者があらたな知見に到達することの素晴らしさを感じていただけるはずだ。

 ◇しもごおり・たけし=1968年大分県生まれ。沖縄工業高等専門学校准教授。専門は琉球近世史・日本中世史。

 臨川書店 3000円

読売新聞
2018年2月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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