<東北の本棚>まっぷたつの風景

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<東北の本棚>まっぷたつの風景

[レビュアー] 河北新報

 岩手県陸前高田市出身の写真家畠山直哉さん(東京都在住)が仙台市のせんだいメディアテークで16年11月~17年1月に開いた写真展「まっぷたつの風景」の内容をまとめた。展示写真と、著者が会期中に語った言葉、それぞれ124ページからなる。
 初期作品から最新作まで約30年間の写真と本人の解説が付く。注目は東日本大震災で大きな被害を受けた故郷を撮り続けたシリーズ。震災前の平和な風景や復興工事で変貌する街の姿など、記録やアートの枠を超え、見る人の心を静かに揺さぶる。
 幅36メートルの長大なテーブルの上に大判フィルムの原寸プリント約4400枚を並べた試みも注目だ。原寸プリントは制作過程が分かり、人には見せたくないもの。ただ著者は「気恥ずかしいが、陸前高田の写真に限っては、自分の身を差しだして仕事をするしかない」と述べ、膨大なフィルムに刻まれた自身の葛藤や、震災から5年半の時間を丸ごとさらけ出す。震災を経て撮影手法に変化が生まれたことも示している。
 やや物騒なタイトルはカルヴィーノの寓話(ぐうわ)「まっぷたつの子爵」にちなむ。震災で引き裂かれた風景がどう明日へつながるのか。割り切れないものがあっては駄目なのか。意味するところはさまざまだ。
 著者の言葉は哲学的で、収録されている詩人佐々木幹郎さん、漫画家いがらしみきおさん(仙台市)、写真家志賀理江子さん(宮城県美里町)との対談にその端々が現れ、読み応えがある。
 1958年生まれ。写真集に「アンダーグラウンド」「気仙川」など。木村伊兵衛写真賞、毎日芸術賞、芸術選奨文部科学大臣賞など受賞多数。
 赤々舎075(746)7949=4104円。

河北新報
2018年2月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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