師・談志もよく言っていた「オレは老人初心者だ」

レビュー

6
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はじめての八十歳

『はじめての八十歳』

著者
山藤 章二 [著]
出版社
岩波書店
ISBN
9784000244862
価格
1,512円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

師・談志もよく言っていた「オレは老人初心者だ」

[レビュアー] 立川談四楼(落語家)

 晩年の談志は高座でよくこう言いました。「オレは老人初心者だ」と。ですから本書のタイトル『はじめての八十歳』がストンと腑に落ちます。通底するものを感じるのです。

 始まりの「気がつけば『わけのわからんこと』だらけ」にこうあります。

「私事(ワタクシゴト)で恐縮だが、永らく入院していた。右脚ヒザに人工関節を装着するのに、術前術後ひっくるめて百日余を要した。長い。およそ休みの嫌いな、勤勉人間の私としては、人生設計にない長い空白になった。

 入院中に八十歳の誕生日を迎えた。

 連載していた仕事は全て休載した。仕事をしていない状態の年寄り、というのを身をもって体験した。同時代人たちが次々とあの世に逝く。あっという間に逝く。ドサクサに紛れて私も逝きたかったが叶わなかった」

 そして本書を著(あら)わす動機をこう記します。

「わずかだけど、残りはまだある。(砂時計が)落ち切るまでに何かをしたいと考えた。何をしようか。大切な青春期にし残したアレをしようか、『考える』ということ」

 吉田兼好です。「心にうつりゆくよしなし事」をランダムに綴るのです。話題は縦横無尽、融通無碍、正確さはさて措きとの宣言通り、「好き嫌い」を頼りに筆を走らせます。「文句受付けません」と言いつつ。

 私は「川柳を考えた」を面白く読みました。著者はサラリーマン川柳の選者として多くの作に接するのですが、川柳の無名性を賛(たた)え、印象深い傑作を紹介します。「まだ寝てる帰って見ればもう寝てる」です。激しく同意しました。この川柳、私も落語のマクラで使っているのです。そして著者はショックを受けた作を紹介します。「あの世にも 次の世界が あるかしら」です。この川柳を著者は「恐るべし素人川柳。俳句より風刺漫画より上だ」と手放しで褒めているのです。

新潮社 週刊新潮
2018年2月22日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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