『松本清張 「隠蔽と暴露」の作家』
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清張ブームの再燃 その理由がここに
[レビュアー] 碓井広義(メディア文化評論家)
昨年放送された松本清張原作のドラマは、『黒革の手帖』など4本もあった。なぜ今も清張作品は広く受け入れられるのか。高橋敏夫『松本清張「隠蔽と暴露」の作家』を読むと、その答えの一端が見えてくる。
早大教授である著者は、清張の怒涛のような表現活動の核に「隠蔽と暴露」という方法があったと言う。同時に「隠蔽を暴露する」ではないことを強調する。圧倒的な勢力による巨大な秘密の隠蔽と、それに対する個々の小さな暴露という対比を重視しているのだ。
その上で、清張が作品を通じて暴露してきたものを浮かび上がらせていく。『球形の荒野』『黒地の絵』は、戦後も続いていた「戦争」を。『ゼロの焦点』『砂の器』では、暗い戦後をなかったかのように覆い隠した「明るい戦後」の欺瞞を。
そして『点と線』『けものみち』が暴いたのは「政界、官界、経済界」の癒着や汚職だ。さらに「オキュパイドジャパン(占領下の日本)」という、現在まで影響を与え続けている巨大な密室をこじ開けようとしたのが、『小説帝銀事件』や『日本の黒い霧』だった。
清張作品は途切れることなく書店の棚に並んでいる。また今後もドラマや映画などの映像化は続くだろう。著者はそんな清張ブーム再燃の背景に、「ふたたび姿をあらわしはじめた秘密と戦争の薄暗い時代」としての現代を見る。清張の生活史を踏まえ、作品群に新たなスポットを当てた本書もまた、隠蔽する力に抗う一つの試みかもしれない。