「越前の狂犬」と呼ばれる男
[レビュアー] 大塚卓嗣(作家)
富田長繁(とだながしげ)。
という、とんでもない戦国武将がいたのです。
どれだけスゴい人かは、とりあえず手元のスマホなどで検索してみれば、よくわかると思います。
……はい、ヒドいですね。
主君を裏切ったり、合戦をしかけたり、謀殺したりという、悪事のフルコース。死に方も最悪で(ぜひ検索してみてください)、ネット界隈でつけられたアダ名が「越前の狂犬」と、まったくエラいことになっています。
たまりません。
私は、このような無理、無茶、無謀を極めた「時代の徒花(あだばな)」みたいな人物が大好きです。
自分が書かなければ誰が書くんだという、ある種の使命感に突き動かされながら、私は執筆を始めました。
しかしながら、これを形にするまでは、ずいぶんと悩まされました。
まず、史料らしい史料がない。軍記ものでは、越前朝倉家の事跡を書いた『越州軍記』がまとまっていますが、なかなか内容の裏付けがとれない。織田信長の一代記である『信長公記』にも若干の記述がありますが、ホントに少し。
そして、研究資料もわずかで、地方史の類をあたってみても、その存在をほとんど無視されてしまっています。朝倉家の研究の中に、やっと名前を見かけるくらいです。
それでも、どうにか頭をひねり、工夫を重ね、ようやく一本のスジとなりました。
このたび、『くるい咲き 越前狂乱』として上梓されます。興味のある方は、ぜひとも御覧になってください。
歴史小説には、あまりない「一人称視点」というのもポイントでしょうか。とにかく、色々と珍しい一冊になっていると思います。