『赤猫』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
旅をする刑事 片倉康孝の肖像
[レビュアー] 柴田哲孝(作家)
最近“乗り鉄”という病に感染したらしい。
自覚症状がある。旅には自分で車を運転していくことが多いのだが、旅先でローカル線に出会うと、むずむずと乗りたくなってくる。そして実際に、乗ってしまう。
新刊『赤猫』は、そんな自分の経験の中から生まれた作品である。
主人公の片倉康孝刑事は、私と同世代の五十代後半、定年間近のロートル刑事である。警察官としての出世は警部補までで、離婚歴があり、人生に不器用なところも私に似ている。名前の最後に“孝”という文字が入ることでもわかるように、片倉康孝は私の分身そのものである。
そんな片倉を、ローカル線の旅に連れ出してみたくなった。
舞台は“秘境の鉄道”として知られる只見線である。福島県の会津若松駅から標高七六〇メートルの六十里越(ろくじゆうりごえ)トンネルで県境を越え、新潟県魚沼市の小出(こいで)駅まで全長一三五・二キロメートル。沿線には只見川、破間川(あぶるまがわ)が流れ、秋には紅葉の渓谷美、冬は日本有数の豪雪地帯を走破する。途中、二〇一一年の新潟・福島豪雨により何個所かで橋梁(きようりよう)が流失し、会津川口~只見間の二七・六キロメートルが不通になっていることも、何度も挫折を経験した片倉の人生に似て妙である。
片倉が只見線に乗り、秘境の風景の中を旅する時、そこで何に出会うのか。いったい、何が起こるのか。それを確かめたいと思ったことが、新刊『赤猫』の出発地点だった。
やがて片倉は、運命に導かれるように自分自身で歩きはじめる。そして二〇年前に起きた一件の放火殺人事件の終着駅に至る。
人生は、旅そのものである。今回も前々作『黄昏の光と影』、前作の『砂丘の蛙』と同様、片倉の人生の道標として別れた妻の智子、後輩の柳井も登場する。
只見線を舞台に彼らが織り成す物語に、ご期待ください。