秘めた悪意との対決 『そのバケツでは水がくめない』 飛鳥井千砂

レビュー

7
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そのバケツでは水がくめない

『そのバケツでは水がくめない』

著者
飛鳥井千砂 [著]
出版社
祥伝社
ISBN
9784396635381
発売日
2017/12/12
価格
1,836円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

秘めた悪意との対決

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

 相手の悪意に気づかないことはある。相手が巧妙に隠しているからとも、「相手に悪気があると考えてしまうような卑屈な自分でいたくない」という意識が働いてしまっているとも考えられる。そのモヤモヤした気持ちが積もり積もっていったら、一体どうすればいいのか。我が身を振り返りつつ、考えさせられるのが飛鳥井千砂の『そのバケツでは水がくめない』だ。

 アパレルメーカーに勤務する理世は、新ブランドの企画メンバーに抜擢される。彼女がスカウトしたのは無名のデザイナー、美名。その才能に惚れ込んだ理世は、同世代であることや、社内の人間関係のトラブルを彼女に助けてもらったこともあり、美名と仕事を超えて親友同士のような仲になっていく。しかし、ある時期から、美名の言動に違和感をおぼえるように。何か自分が責められているような、どこか自分が嫌われているような感覚のぬぐえない理世だが、同僚にも、友人にも、恋人にもそのことが相談できない。そして少しずつ、仕事の方向性にもすれ違いが生じるようになり……。

 合わない人間とは距離をおけばすむ話だが、仕事仲間となるとそうはいかない。私的感情を抑えて接しようとしても、相手がそうでなかったら始末が悪い。考えの違いが仕事に影響してくるのも問題だ。

 職場などで一度は経験しそうな人間関係のざらつきを、丁寧な筆致で追っていく。理世が直面する様々な感情に共感する人は多いのでは。あるいは自分も美名のように、それとなく相手を傷つけたことがあったと思い出す人もいるかもしれない。

 この微妙な関係を、最後まで緊張感をもって、書き切ったのが見事。現代の人間関係に悩める人々にそっと差し出してあげたい一冊だ。

光文社 小説宝石
2018年3月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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