『モモコとうさぎ』
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『嘘 Love Lies』
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[本の森 恋愛・青春]『モモコとうさぎ』大島真寿美/『嘘 Love Lies』村山由佳
[レビュアー] 高頭佐和子(書店員。本屋大賞実行委員)
特定の職業につく女子の奮闘と活躍を描く「◯◯ガール」のような職業小説が近年人気だ。大島真寿美『モモコとうさぎ』(KADOKAWA)は、それらとは違う異色のお仕事小説である。働くってどういうことなのか、久々に考えさせられた。
大学を卒業しても就職が決まらず、部屋にこもって縫い物ばかりしているモモコ。母とその再々婚相手とともに平穏に暮らしていたのだが、ある出来事をきっかけに「ハイスペックなうさぎ」のおもちゃを連れて家出をすることになる。友人や兄を頼るものの次々に追い出され、不法就労の外国人に混ざって清掃の仕事についたり、過疎の村の荒れた寺を掃除することになったり……。ひょんなことからうさぎたちがたくさんいるという「桃源郷」で暮らすことになる。
鈍臭い上に考えが甘いモモコだが、ただの怠け者ではない。過酷な環境に耐え、大変な仕事もこなす順応力がある。変な回り道をしながらも、あちらこちらで出会うクセのある人々にさりげなく助けられたりヒントをもらい、自分の中にある何かをかたちにしようとする。そんなモモコを応援しながら楽しく読んだ。格差社会、限界集落などの問題についても考えさせられるが、人間にはわからない言葉で交信しあう妙なうさぎたちのおかげで、悲壮感が漂わないところも魅力的だ。
大島氏の小説には、どんな場所や時代が舞台でも、立場も年齢も生き方も異なる人々が自然に助け合って暮らすコミュニティが描かれる。違う生き方をする人同士が認めあい、自然に手を差し伸べあうその関係に、私はいつも救われている。ダメでもいいじゃん、ダメな人にしかできないこともあるんだよと、登場人物たちに励まされた気がするのだ。
人は誰でも嘘をつく。嘘に傷つけられ、翻弄され、そして守られながら生きていくものなのだ。村山由佳『嘘 Love Lies』(新潮社)を読み終わって、そんなことばかり考えている。中学の同級生4人の男女の運命を描いた小説だ。荒んだ環境で暮らす秀俊、感性が鋭い美月、優等生の亮介、厳格な家庭で育った陽菜乃。温かい友情と淡い恋愛感情を抱きあった4人が、ある事件をきっかけに人生を狂わせてしまう。中学時代の出来事と20年後が交互に描かれ、その衝撃的な秘密と過酷な運命が徐々に明らかになっていく。
相手を守るために本当のことが言えず、友情という形でしかつながれない二人と、秘密を共有しているがゆえに、離れることができない二人。どちらの関係も切なく苦しい。大人の純愛に酔い、裏社会に生きる残酷な男たちの歪んだ愛情に興奮を覚えながら、一気に読み終えた。「嘘」というタイトルが、心にずっしりと重い。