<東北の本棚>銃後の少年時代を記録
[レビュアー] 河北新報
太平洋戦争敗戦の時、著者は10歳だった。少年時代にタイムスリップして銃後の体験を記録、戦後の戦争責任を問い掛け、最後は現代の人々が平和をつくり出すには何が必要かを探る。17編の詩にまとめた。
著者は1935年、奥州市生まれ。小林多喜二が虐殺され、昭和三陸地震津波が襲う。東北地方が大冷害に襲われるという時代状況を、まず描く。美濃部達吉博士の天皇機関説が排斥され、内閣は、この国が天皇の統治する国家であるとの国体明徴の声明を出す。「立憲主義による統治は死滅することとなった」と詩につづる。
石油の代わりに利用しようとしたのが松の根。国民学校の子どもさえ「おおきな松の木の根を唐鍬(とうぐわ)で掘らされた」とある。「初等科二年の体重が一年のときよりも四キロ近くも少ない」。食料不足は育ち盛りの子どもたちにとって非情であった。
米国と全面戦争に突入。米軍が本土空襲、沖縄に上陸開始、広島・長崎へ原爆を投下した。敗戦を迎えると「戦中にその教科書でわたしたちを指導した同じ教師が/ここに墨を塗れ/このページは切り取れ/と指示したことにより強烈な衝撃」を受けた。
終章で「絶対に起こってはならない事態がもし起こったら/それは破局であり終局である」と書く。それとは核戦争のこと。「全方位外交こそが/国民のいのちと暮らしを守る」と説く。大災害が人々を襲う。立憲主義は崩れ、核戦争の危機にさらされる。詩文を追うと、人は今に至るまで、同じことを繰り返していることに気付く。
著者は学生時代から福島県に住み、高校教師を長く勤めた。日本現代詩人会会員。南相馬市在住。
コールサック社03(5944)3258=1620円。