橘玲が明かす「宝島30」編集長時代 あの銃撃騒動も

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

80’s

『80’s』

著者
橘 玲 [著]
出版社
太田出版
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784778316143
発売日
2018/01/23
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

あの銃撃騒動も思い出す その時代の記憶と記録

[レビュアー] 吉田豪(プロ書評家、プロインタビュアー、ライター)

 投資や経済をテーマとする作家・橘玲。正直、何の興味もない人だったんだが、本名も顔写真も非公開にしている彼が元『宝島30』編集長で、当時のことも含めた自分語りを本にしたと聞いたら話は別である。『宝島30』の記事がきっかけで美智子妃がストレス性の失語症となり、それに怒った右翼が宝島社に銃弾を撃ち込み、その翌日、『宝島』編集部に行ったら「伏せて! 窓から頭が見えると撃たれるから!」と言われ、伏せながら歩いた経験を持つ身としては他人事じゃないのだ。

 いまやネットで検索しても、ボクと元『宝島30』編集者でもある町山智浩の証言ぐらいしか出てこない銃撃騒動について、編集長のコメントがようやく読める……と思ったら、なぜか「ある朝、会社に行ったら玄関の前に警察官が集まっていて、ガラスにいくつか穴が開いていた。とはいえ、皇室や右翼のことなどほとんど知らなかったから、たいへんだなあ、ということはわかったが、だからといって恐怖を感じるということはなかった」って感じで、えらい他人事だったからビックリ。

 その後、「別棟の編集部に右翼が立てこもるという事件が起きる。幸いなことに警察官の説得で事なきを得たが、このときはさすがに『ヤバい』と思った。会社もこのトラブルにどう対処するか悩んだのだろうが、けっきょく編集長を替えて雑誌は存続することになった。それで、ぼくが新しい編集長になることになった」とのことで、要は銃撃騒動の尻拭いで編集長になった人だからそれもしょうがなかったわけである。

 彼が編集長になると、「地下鉄サリン事件の直後から、ぼくたちの雑誌は教団に対して独占的に取材できる立場にあった。事件が起きると南青山にあるオウム真理教本部はものすごい数のメディア関係者に取り囲まれたが、そんななか、ぼくたちだけは教団の建物に入っていくことができた」ので、そっち関係については当事者としての濃い話も満載。

新潮社 週刊新潮
2018年3月1日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク