もう人間はAIの手本にもならない

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棋士とAI : アルファ碁から始まった未来

『棋士とAI : アルファ碁から始まった未来』

著者
王 銘琬 [著]/王 銘〓 [著]
出版社
岩波書店
ISBN
9784004317012
価格
842円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

もう人間はAIの手本にもならない

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)

 チェスのコンピュータ対局ソフトが人間の世界チャンピオンに勝ったのは、一九九七年のこと。そのとき「人間はもうコンピュータに勝てない」と思った人は多くなかった。

 しかしここ数年で、囲碁のAI「アルファ碁」は人間の実力を一気に抜き去ってしまった。自らも囲碁ソフト開発にかかわった王銘エンの『棋士とAI』で、衝撃の急展開を知る。

 アルファ碁はディープラーニング技術(自律的に特徴を見つけて学習する)を導入していて、もう人間に教えてもらう必要がない。従来の囲碁ソフトはあくまでも人間の世界観や視点に基づいていたから、たとえ対局でコンピュータに負けても人間は「先生」でいられた。しかしAIはいまや人間に頼らない独自の視点をもつに至り、言語化できないために伝えることができなかった「感覚」の部分をも手に入れたのだ。この本は碁にくわしくない読者を念頭に、この部分の解説に力を入れている。

 アルファ碁の開発会社はグーグルが買収し強力にバックアップ。常識はずれの巨体をもち、カネと電気をむさぼり食っていたAIは、能力の飛躍的な向上と裏腹に、サイズもコストもみるみる縮小中だ。囲碁での成功を足がかりに、ディープラーニング技術に基づいたAIはこれから各方面に進出していく。

 そうしたら、価値の大転換時代が始まる。「人間にしかできないこと」の中身は、どんなふうに書き換えられていくのだろう。

新潮社 週刊新潮
2018年3月1日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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