空前のビッグブーム到来! 将棋・囲碁をテーマに描いた6つのミステリー

レビュー

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謎々 将棋・囲碁

『謎々 将棋・囲碁』

著者
千澤 のり子 [著]/宮内 悠介 [著]/深水 黎一郎 [著]/葉真中 顕 [著]/新井 素子 [著]
出版社
角川春樹事務所
ISBN
9784758413190
価格
1,404円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

将棋・囲碁の対局を「見る」楽しみだけでなく、「読む」面白さも増えて欲しい!〈『謎々 将棋・囲碁』刊行記念〉

[レビュアー] 西上心太(文芸評論家)

 将棋界と囲碁界でビッグニュースが続きます。まずめでたい話題では、永世七冠をようやく達成した将棋の羽生善治と、二度目の七冠制覇を成し遂げた囲碁の井山裕太が、揃って国民栄誉賞を受賞したことでしょう。二人のスーパースターの実績はすごいの一言。

 次はついに来る時が来たという話題。そうです、人間の棋力をAIプログラムが超えたこと。将棋の方は数年前からAIとの対抗戦で負け越していたので、そんなに驚きはありませんでしたが、そうはいっても最後となったAIとの公式対局で現役名人がいいところなく連敗したのはやはり感慨深いものがありました。驚いたのが囲碁の方です。人間に追いつくのはまだまだと思われていた時に突然AlphaGoという囲碁AIが登場。あれよあれよという間に、世界一の棋士まで破ってしまいました。

 とはいえ人間同士の戦いの面白さはまったく減じていません。AIがくり出すこれまでにない手に驚き、ゲームの新たな可能性を見出すことができた喜びにわくわくしているプロ棋士も多いようです。実際、両プロ棋界ではAI発の戦術や手筋を取り入れた作戦が流行しているようです。

 そして最後がニュースターの誕生でしょう。囲碁界でも井山七冠を追う十代棋士が何人も活躍してますが、こればかりは将棋の藤井聡太にかないません。まさに席巻という言葉がぴったり。史上最年少でプロ棋士デビューというのもすごいですが、デビュー以来公式戦29連勝を記録して連勝記録を更新するとは。さらに全棋士参加の棋戦で羽生らを破り優勝、あっという間に六段へ昇段。漫画でも小説でもこんな設定だったら絶対に「リアリティがない!」の一言でお蔵入りでしょう。

 ということで空前の将棋ブームが到来。他社ですけど山前譲編『将棋推理 迷宮の対局』というアンソロジーが出たのも藤井くんのおかげでしょう。

 さて本書の企画が始まったのは昨今のブームのもっと前。将棋と囲碁を一冊のアンソロジーにというのも珍しく、立案した編集者は先見の明がありますね。

 トップは新井素子さんの「碁盤事件」。そろそろ四十歳に手が届こうかという共稼ぎのご夫婦。ちょっとそそっかしい妻の晶子さんがリビングで転倒し、碁盤に頭をぶつけて救急車で搬送されます。その後、晶子さんの怪我は自分が犯した殺人未遂であるという碁盤の呼びかけで、熊のぬいぐるみのミーシャを中心に、TVやダイニングテーブル、座布団など、その部屋に置かれた家具や備品が、晶子さん転倒事件の顚末を話し合うという楽しい一編です。

 新井素子さんはご夫婦揃って大の囲碁好き。このご夫婦は間違いなくご自身たちがモデルでしょう。事件? の遠因も新井さんご夫婦の「実話」に基づいているようです。夫婦で同じ趣味を持つのは素敵なことですが、囲碁という対人ゼロサムゲームは御法度なのかも(笑)。

 葉真中顕さんの「三角文書」はSFミステリーといえるでしょうか。引退後TVに引っ張りだこの某棋士をモデルにしたようなキャラクターが登場し、滅亡した古代文明の遺跡から発掘された文書の謎をめぐって珍説が披露されます。

 囲碁有段者の宮内悠介さんの「十九路の地図」は、脳と直結する特殊なインタフェースを使い、植物状態になった祖父と孫が囲碁の対局を試みるという作品です。対局を通じて祖父だけではなく、不登校の孫にも奇跡がもたらされていきます。やっぱり頭脳ゲームはいいですねえ。

 深水黎一郎さんの「☗7五歩の悲劇」は、ある特殊ルールに基づいた対局の模様が描かれます。その勝敗には地元商店街の存続がかかっていました。その状況を盤面の駒たちが語っていきます。擬人化された手法と思わせておいて、深水さんの出身地に関連する仕掛けが炸裂します。

 千澤のり子さん「黒いすずらん」は両親を亡くし、「おばあちゃん」に引き取られた少女が主人公。囲碁を教えるおばあちゃん、そしてあるハンデを負った少女と囲碁とのかかわりが意外な顚末を呼び起こします。

 トリをとるのが瀬名秀明さんの「負ける」です。冒頭で話題にした人間とAIとの戦いに関係した者たちの葛藤を描いた、先端的な科学や工学に造詣が深い瀬名さんならではの作品です。

 以上、将棋と囲碁をテーマにした六短編。いずれも個性豊かな作品が揃いました。最近はプレイするだけでなく、対局を見るファンが増えているようです。将棋の場合は《見る将》という言葉までできてます。そこに将棋・囲碁に関する本を《読む》ファンも増えてほしいもの。本書がそのきっかけになればなによりの喜びです。

角川春樹事務所 ランティエ
2018年4月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

角川春樹事務所

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