『路上のX』
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居場所をなくした十代の少女たちの救いのない物語
[レビュアー] 鴻巣友季子(翻訳家、エッセイスト)
殺伐として、救いのない物語である。居場所をなくした十代の少女たち、「真由」とその友だち「リオナ」と「ミト」――彼女たちはなぜ渋谷の路頭に迷うのか。
最近話題になった『「鬼畜」の家 わが子を殺す親たち』(石井光太著)というノンフィクションがある。親が実の子を死なせた数件の事件に取材し、問題の根を父母の三代前まで遡ると、類型の連鎖が見られた。貧困、親のネグレクト・虐待、レイプ、学校中退、風俗業入り、早年での妊娠・結婚、家庭の荒廃、子育て能力の欠如と貧困という悪循環だ。
『路上のX』にも、親に棄てられたミトのこんな言葉がある。「あっけなく産んじゃって、あたしみたいな子供ができたとするじゃん。そしたら、うざくて棄てるかもって思ったんだ」。まさにミトとリオナは親世代からの負のループにはまって、渋谷にさ迷い出てきた。しかし、真由はつい先日まで、飲食店を営む恵まれた家の、勉強好きの中学生だった。母親はビーフシチューが得意料理で、清潔な持ち家に暮らしていた。店の経営悪化を理由に、親が家を売り、工場の非正規雇用者である叔父の元に預けられたところから、坂道を転げるように堕ちていく。
この“一気転落”の原因は、いわば経営者層の子を底辺層の家庭が面倒みるというひずみにもあるだろう。さらに、ぐれた十代は昔のように“地元の不良”になってウダウダせず、優等生ほど、JKビジネスの街・渋谷へ一直線に吸いこまれていくせいもある。家族、地域、学校、友人からいきなり孤立した無力な少女たちを大人は寄ってたかって食い物にする。
生まれたときから踏みつけにされてきたリオナとミトが、感覚を鈍麻させることで生き延びようとする一方、真由は自らの受けた心身の傷を正面から正そうとするが……。
本書は明るい調子のやりとりで終わっているが、その明るさゆえにいっそう重く暗澹たる結末なのである。