『ビッグデータ・コネクト』
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IT技術者たちの壊れた日々に圧倒
[レビュアー] 北上次郎(文芸評論家)
【前回の文庫双六】島尾敏雄の「をんなを待つ間の日記」――梯久美子
https://www.bookbang.jp/review/article/548332
特攻隊長として赴任して待機、さらには後年移住するなど、島尾敏雄と奄美の関係が深く濃厚であることはここに書くまでもない。そこで奄美出身の他の作家にバトンを繋ごうと思うが、出来れば島尾敏雄と作品内容が離れていればいるほうが、こういう場合、面白い。
というわけで、次なる作家は藤井太洋。『オービタル・クラウド』で日本SF大賞を受賞した作家である。2013年にデビューした作家なので(電子書籍によるセルフ・パブリッシングでのデビューはその前年)、まだ著作は5作しかないが、日本SFを牽引する作家の一人として高く評価されている。本来なら『オービタル・クラウド』を取り上げるべきなのかもしれないが、ここでは私の好きな『ビッグデータ・コネクト』にしたい。移民の流入とともにデジタル仮想通貨「N円」が浸透した2018年の東京を舞台にした『アンダーグラウンド・マーケット』(朝日文庫)もなかなか興味深いが、『ビッグデータ・コネクト』が面白ければそちらもお読みいただきたい。
行政サービスを民間に委託するプロジェクトのシステム開発責任者が誘拐されるところから始まる『ビッグデータ・コネクト』は、IT業界の最前線を徹底的にリアルに描く長編である。超近代的な産業の内側は驚くほど前近代的で、その犠牲になるのがエンジニアだという。残業代も出ない派遣の身で、月に400時間もオフィスにはりつく者や、なかには100万単位の開発機器を自費で購入する者もいるからまったく信じられない。
帯に大きく、「よく見ておけ、これがエンジニアの地獄だ」とあるように、IT技術者たちの壊れた日々が次々に立ち現れて、ひたすら圧倒されるのである。データが流出するシーンにあふれるイメージの喚起力も鮮やかだ。圧巻のラストまで、とてもスリリングな長編で、2015年のオリジナル文庫大賞の受賞作でもある。