主催社の中公新書からは一度の受賞しかないフェアな賞〈トヨザキ社長のヤツザキ文学賞〉

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バッタを倒しにアフリカへ

『バッタを倒しにアフリカへ』

著者
前野ウルド浩太郎 [著]
出版社
光文社
ジャンル
自然科学/生物学
ISBN
9784334039899
発売日
2017/05/17
価格
1,012円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

主催社の中公新書からは一度の受賞しかないフェアな賞

[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)

 二○○三年、創刊されたばかりの新潮新書から出た養老孟司の『バカの壁』が、四百万部を超えるベストセラーになったのをきっかけに生まれた第四次新書ブーム(ちなみに第一次新書ブームは一九五四年から翌年にかけて起きており、きっかけになったのは伊藤整の『女性に関する十二章』だったのだとか)。

 それを受けて二○○八年に設立されたのが「新書大賞」です。中央公論新社が主催する賞で、一年間に刊行された新書の中から、書店員、有識者、各社新書編集部、新聞記者におすすめの新書を「一位=十点~五位=六点」方式で挙げてもらい、その得点によって順位を決めるというもの。

 これまでの大賞受賞作を抜粋しますと、第一回が福岡伸一『生物と無生物のあいだ』、第三回が内田樹『日本辺境論』、第五回が橋爪大三郎・大澤真幸『ふしぎなキリスト教』、第六回が小熊英二『社会を変えるには』、第九回が井上章一『京都ぎらい』、第十回が橘玲『言ってはいけない』。

 中央公論新社が主催しているにもかかわらず、中公新書から出た本は一度しか大賞を受賞していません。外部の識者から投票を募るというシステムが生むフェアさが素敵な賞といえます。

 その最新の第十一回大賞受賞作が前野ウルド浩太郎の『バッタを倒しにアフリカへ』。バッタに扮した著者が昆虫網を構えた写真が目に飛びこむ、インパクトの強い表紙でも認知度の高いこの本、作家・絲山秋子が「一年間に読んだ本のなかで一番面白かったもの、自分には書けないものに対して個人的に敬意を表しているもの」に贈る絲山賞の第十四回受賞作でもあります。それもむべなるかな。

 若きバッタ研究者である著者が、バッタの大量発生による食糧問題を抱えた砂漠の国、西アフリカのモーリタニアに勇躍乗りこむものの―。艱難辛苦の体験と研究成果を、学者ばなれして闊達かつユーモラスな文体で綴った、読み物として抜群に面白い一冊になっているんです。わたしもこの原稿を書くために買いましたが、十数ページ読んだだけで前野さんのファンになりました。未読の方に熱烈推薦いたします。

新潮社 週刊新潮
2018年3月8日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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