『藤田嗣治 手紙の森へ』 林洋子著

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藤田嗣治 手紙の森へ <ヴィジュアル版>

『藤田嗣治 手紙の森へ <ヴィジュアル版>』

著者
林 洋子 [著]
出版社
集英社
ジャンル
芸術・生活/絵画・彫刻
ISBN
9784087210187
発売日
2018/01/17
価格
1,296円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『藤田嗣治 手紙の森へ』 林洋子著

[レビュアー] 奈良岡聰智(政治史学者・京大教授)

作品理解に必須の史料

 今や海外を拠点に活躍する日本人アーティストは少なくないが、その道を最初に切り開いた先達の苦労は並大抵ではなかった。油彩画の分野におけるパイオニア藤田嗣治も、そうであった。近年新資料の公開をきっかけとして藤田研究は急速に進展し、日本を飛び出した彼の苦闘ぶりが明らかになってきている。本書は、最新の研究を牽引(けんいん)してきた著者が編んだ一冊で、藤田の友人宛の手紙を、多数のカラー写真と充実した解説により紹介している。

 藤田は、絵を「描く人」であると共に、手紙を「書く人」でもあった。一昨年刊行された著者監修の『藤田嗣治 妻とみへの手紙』では、渡仏して間もない彼が、妻に対する愛情、パリ生活に賭ける情熱を赤裸々に綴(つづ)っていたことに驚かされたが、本書で紹介されている手紙の文面も、実に率直である。中でも圧巻なのは、三人目の妻ユキに別れを告げた手紙。藤田が机の中に手紙を残し、黙ってユキの元を去ったことは、彼女の手記によって既に知られているが、手紙の現物が残されていたとは驚きだ。

 藤田にとって「書くこと」と「描くこと」は分かち難く結びついていたようで、本書に掲載されている手紙の多くに絵が添えられている。むしろ絵のほうがメインになっているものも少なくなく、油彩画とは異なる味わいを醸し出している。戦時中の手紙には、戦争画(作戦記録画)を描くにあたっての心境が綴られ、絵のタッチからも戦時色が伝わってくる。戦犯問題をめぐる画壇の対立を示唆する手紙もある。戦後に逐(お)われるようにして離日した時期の手紙からは、最後の妻君代への愛情とフランスへの想(おも)いが感じられる。いずれも、藤田の作品を理解するのに必須の史料である。

 今年は藤田の没後五〇周年にあたり、夏からは過去最大級の回顧展も開催される。この機会に「手紙の森」に分け入って、彼の創作に思いをめぐらせてみてはいかがだろうか。

 ◇はやし・ようこ=美術史家。文化庁芸術文化調査官。『藤田嗣治 作品をひらく』でサントリー学芸賞など受賞。

 集英社新書 1200円

読売新聞
2018年3月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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