二十年目に最大の謎を――高田崇史『卑弥呼の葬祭――天照暗殺――』

レビュー

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卑弥呼の葬祭

『卑弥呼の葬祭』

著者
高田 崇史 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103393337
発売日
2018/02/27
価格
1,512円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

二十年目に最大の謎を

[レビュアー] 高田崇史(小説家)

 第九回メフィスト賞受賞作『QED 百人一首の呪』が世に出たのが一九九八年十二月。高田崇史氏はデビュー二十周年の節目を迎えた。「QED」シリーズ、「カンナ」シリーズ、「神の時空(とき)」シリーズ、「毒草師」シリーズなど、数多くのシリーズを駆使して、この二十年間に六十冊に迫る数の作品を上梓してきた。その多くが、日本史や民俗学の該博な知識を駆使し、歴史の常識を覆すスリリングなミステリー。最新作『卑弥呼の葬祭――天照暗殺――』では、遂に古代史最大の謎ともいえる邪馬台国に取り組んで、大胆不敵な結論を導き出した。著者が語る二十年の歩みと最新作の秘密――。

 数えたことはなかったのですが、『卑弥呼の葬祭』が五十七作目になりますか。年に三作。多いといえば多いかもしれませんが、普通だろうという感じもあります。僕がデビューした当時は、森博嗣さんや西澤保彦さんが年に四冊とか書いていましたから。ミステリー作家とはそういうものかと思いながら書き始めて、そのまま二十年経ちました。

 といっても、デビュー当時、ネタの蓄積は全然ありませんでした。三冊分くらいしかなかった。デビュー作が百人一首で、次のテーマが六歌仙と七福神、三作目がシャーロック・ホームズ。以上(笑)。それまでは普通の薬剤師で、小説家になろうという野心は持っていませんでしたからね。歴史や民俗学に興味はありましたが、学術的に文献を読み解く訓練を受けたわけでもない。

 だから、あるテーマを徹底的に調べて行って、そこからアイデアが生まれるわけではありません。夢で見たり、車を運転していて信号待ちの時に浮かんだり――AはBなのだよ、という「天のお告げ」が来るんです。僕の場合、神社・地酒・温泉という三条件を達成すると、この「お告げ」が降りて来やすいようです。取材旅行に行って、神社を巡り、地酒を嗜んで、温泉に浸かる。そうすると、神様が憐れんでくれるのか、アイデアを貰える。あとは、それを史料で論理的に裏付けていくだけです。

 もともと理系で、歴史には全くの素人だったから、学説や定説にとらわれない発想ができたのかもしれません。専門家にとってはありえない、とんでもない発想でも、こっちは学界とは無関係だから、平気で書ける。医学の世界でも、本来の専門分野ではない人が新しい発見をした例はいくつもあります。たとえば丸山ワクチンなどがそうでしょう。専門家でない方が、かえって新しい発想ができるのかもしれません。

 QEDシリーズの桑原崇と棚旗奈々、毒草師シリーズの御名形史紋(みなかたしもん)、カンナシリーズの鴨志田甲斐、そして今回の萬願寺響子など、シリーズキャラクターもずいぶん作ってきました。桑原崇が僕の分身なのではないかと、よく言われますが、たぶん違う。むしろ、どのキャラクターも自分の一部分を拡大したものなんです。中でも僕と最も重なるのは棚旗奈々ちゃんだと思っているんですが、誰も信用してくれません。

 今まで書いた作品の中で一番苦労したのが、今回の『卑弥呼の葬祭』です。九州に二回、取材旅行に行って、一度はカンカン照り、二度目は台風直撃でしたから。

 邪馬台国と卑弥呼は、いつかは踏み込まなくてはいけない領域だとは思っていました。それに、天照大神の天岩戸伝説が真に意味するものは、常識的な解釈とは全然違うということは、以前から考えていました。手掛りをつかんだのは、天岩戸神社の天安河原に行った時です。

 詳しくはネタバレになるので明かせませんが、その夜、神社・地酒・温泉をクリアすると、○○は△△だと神様が教えてくれたのです。調べていくと、まったく予測していなかった形で、そこから全部つながっていく。行く先々で証拠が見つかる。もちろん、卑弥呼=天照大神という説は、頭のどこかにありましたが、そんな単純な話ではありません。

 邪馬台国の所在についても、九州説と畿内説をいわばアウフヘーベンする説を提示できたと思っています。ちなみに、小説の中で、この全てを解き明かし、事件を解決に導くのは「あの男」です。「あの男」が邪馬台国論争に決着をつけます。僕ではありません(笑)。

 二十周年の今年は、某社で新シリーズを立ち上げることになっています。QEDシリーズも書くし、初の児童書の予定もあります。萬願寺響子シリーズの次回作では、『平家物語』に取り組みます。あの大部な物語に、どのような歴史が隠されているか。それは追々見えてくるでしょう。

新潮社 波
2018年3月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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