『オリンピックがやってきた 1964年北国の家族の物語』
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<東北の本棚>世相映した家族の物語
[レビュアー] 河北新報
東京オリンピックが行われた1964年の地方の世相を、著者の出身地である青森市を舞台に、一家族を中心とする群像劇として書き下ろした小説だ。3世代で暮らす前田家を中心に、近所にある洋館のあるじ「奥さま」と使用人の「おトキ」らを登場人物とし、6話で構成する。
前田家は小学4年の民子と小学1年の弟公平、父昭和と母久仁子、昭和の弟昭次、祖父母の7人暮らし。民子が祖母ツナと訪れた洋館で、虫垂炎を発症。おトキが民子を連れて医院に駆け込むくだりから、物語が始まる。
嫁姑(しゅうとめ)の関係や老後のすみか、大人の恋愛の機微、児童の純粋な友情、犯罪者心理などを、分かりやすい人物のキャラクター設定と巧みな心理描写で表現した。オリンピックを視聴するために購入したカラーテレビが一家をつなぐ象徴的なコミュニケーションツールとして登場する。
戦死した昭和の兄を思うツナの親心やツナが通う医院の医師の最期などを通し、日常にある死を描いた。売春婦の母が若くして亡くなり、身売りされかけたおトキの生い立ちや貧しさゆえに同級生にいじめられる民子の友人るみ子のエピソードなど、身近にあった社会の影にも触れた。
著者は1964年青森市生まれ。同市在住。2006年「闇鏡」が第18回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞に選ばれデビュー。「幻想郵便局」をはじめとする「幻想」シリーズで人気を集める。
「自分が生まれた年の話を書きたかった。日本人が頑張ってこの国の歴史をつくり、多くの死と暗い時代を経て今があることを分かってほしい」と話す。
KADOKAWA(0570)002301=1620円。