『フクシマ 2011-2017』
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<東北の本棚>原発事故後の変遷撮影
[レビュアー] 河北新報
除染廃棄物を詰めた黒いフレコンバッグが置かれた集落。背後は緑に包まれた里山。その対比が東京電力福島第1原発事故の悲惨さを写し出す。写真家の著者が事故後の2011年春から17年秋にかけて福島県浜通りと中通りの環境変化を追った写真集だ。15市町村の計330カ所で撮影した約5万枚のうち190カットを収めた。全点カラー。
「美しい風景の中に失ったモノの大きさを非当事者にもおのれのこととして認知し当事者と共有することが必要だ」。そんなコンセプトで著者は福島に足を踏み入れた。6年半で計120回訪問。スチルカメラと小型無人機ドローンを使い、定点観測の手法を取り入れた。
富岡町のJR富岡駅前商店街はほとんど解体された。川俣町の農家はいつの間にか引っ越して空き地に。飯舘村では除染で剥ぎ取った地表に土砂を補充するため掘削された山が消えた。一方、南相馬市原町区で津波に遭った耕地は、徐々に復興整備が進められて作付けが再開。楢葉町の天神岬スポーツ公園には人が戻る。
著者は葛藤を覚えた。美しい山里の風景が除染作業によって壊されていく状況を記録することは、避難者たちが心に抱く風景に傷痕を残すのではないかと。だが撮り続けるうちに心境が変化。「未来に向かってレンズを向けているような感覚に襲われたりもした」「さらにこれからも見つめ続けよ! という付託かもしれない」。そして現在も足を運びシャッターを切る。
「問わねばならないのは、眼の前の豊かさを追う願望のサイクルの渦に陥っていた私たち自身の日常だ」。そう指摘する著者の言葉をいま一度胸に手を当てて考えたい。
著者は1939年福井県生まれ。84年に「ヒロシマ」で日本写真家協会賞、2008年には「土田ヒロミのニッポン」で土門拳賞を受賞した。
みすず書房03(3814)0131=1万2960円。