まずは当たり前の読解力を 「AI」vs.教科書が読めない子供たち

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AI vs. 教科書が読めない子どもたち

『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』

著者
新井 紀子 [著]
出版社
東洋経済新報社
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784492762394
発売日
2018/02/02
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「東ロボくん」開発者が警鐘鳴らす中高生の“読解力”

[レビュアー] 板谷敏彦(作家)

 著者は2011年からAI(人工知能)による東大合格を目指す「東ロボくん」のプロジェクトを率いてきた。学科別に様々な試行錯誤を繰り返してきたが、AIの能力では東京大学への合格はできないという結論に至った。AIが人間を押しのけて東大に合格できないということは、いつかAIが人間の能力を凌駕するという「シンギュラリティ」の脅威は我々の目の黒いうちには到来しないことを意味する。

 AIが人間の能力と対抗できる限界は「論理」、「統計」、「確率」という数式に置き換えられる部分までである。数学でさえ、出題文が読めなければ意味がない。現状では、「読解力」を必要とする文章から得られる人間の認識すべてを数式に置き換えることはできないのだ。

 しかし一方で「東ロボくん」は大学進学希望者の上位20%であるMARCHの一部学部には合格できるまでの力をつけた。最高レベルの人間の代替は無理だが、普通に優秀なレベルであれば充分に代わりが務まる。最近よく目にする将来無くなる仕事のリストは近未来の現実なのである。

 では人はどうすれば良いのだろうか、著者は「東ロボくん」での知見をもとに、AIが人間に追いつけない「読解力」に着目。独自テストを開発し中高生の基礎的読解力を調査すると、驚くべきことがわかった。AIに対抗する以前にまともに教科書が読めない子どもたちが大勢いたのである。現状の記憶中心の日本の教育方法は未だにAIによって代替されうる能力をあてがっているに過ぎない。

 高校生になってからの「読解力」の伸びしろには限度がある。アカデミックなデータを背景に、我々の喫緊の課題は中学を卒業するまでに中学の教科書を読めるようにすることだと著者はいう。話題になりやすい英語の早期教育やプログラミング教育の前に、先ずは母国語で教科書を読めるあたりまえのはずの「読解力」が重要なのだ。一読を推奨する。

新潮社 週刊新潮
2018年3月15日花見月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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