「石原慎太郎」の作家としての真価は?

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  • 石原慎太郎を読んでみた
  • 読んでいない本について堂々と語る方法
  • 名作うしろ読み

書籍情報:版元ドットコム

「石原慎太郎」の作家としての真価は?

[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)

〈思い込みだけで何となく貶す〉――その瞬間は気持ち良くても、後ろめたさがしこりのように残り続けることはないだろうか。

 そんな私のような小心者の怠け者にぜひおすすめしたいのが栗原裕一郎豊崎由美の共著『石原慎太郎を読んでみた 入門版』。石原慎太郎という、知名度抜群の悪者キャラの「作家としての真価」をテーマに、膨大な作品群を繙き、片っ端から評価を下していく。例えば第一章の最終節「悪文は慎太郎のトレードマーク?」。長文をだらだら続けるうちに途中で主語を見失い、意味不明な悪文になってしまう残念な兆候は〈てにをはヌーヴォーロマン〉と命名され、〈「恋愛という名の精神遊戯」〉だの〈「女という瞬間の痺れた現実」〉(!)だの、恥ずかしい表現が次々にほじくり返される。小気味よいディスりっぷりに溜飲を下げる読者も多いだろう。

 だが、本書がほんとうの意味で痛快なのは「思い込み」の部分が詳らかにされる過程にある。「太陽の季節」が芥川賞を受賞した当時の選考会を勝手にやり直したり、福田和也の『作家の値うち』を独自に再現してみたり、多角的な検証の果てに手渡されるのは、慎太郎の小説は「愉しい」という意外な事実。それを実際に「確かめる」のもまた読者に与えられた権利なのだ。

「読まずに語る」問題といえば、ピエール・バイヤール『読んでいない本について堂々と語る方法』(ちくま学芸文庫、大浦康介・訳)という刺激的なタイトルの名著があるが、こちらも実際に読んでみれば意外な「中身」に驚くはず。洗練された超絶技巧のおふざけの中に織り込まれているのは、「読む」という行為自体の曖昧さへの警鐘だ。

 では、そもそも読書の正解とはどこにあるといえるのか? ネタバレ上等、古今東西一三二冊の名作の全体像をラストの一文から華麗に読み解く斎藤美奈子『名作うしろ読み』(中公文庫)には、簡にして要、くだんの問題にぴったりの名言が登場する。〈これだけは保証しよう。本の話は「既読の人」同士でしたほうが絶対おもしろいのである〉。

新潮社 週刊新潮
2018年3月15日花見月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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