「理系という生き方」 生涯を賭けるテーマをいかに選ぶ?

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生涯を賭けるテーマ それをいかに選ぶ?

[レビュアー] 小飼弾

 先人の業績を調べ上げ、何がわかっていないのかをわかった上で仮説を立て検証する。その点においてサイエンティストとジャーナリストの仕事に違いはない。なぜか前者は理系、後者は文系と呼ばれるが、どちらも共にリサーチャー。そのリサーチャーをリサーチするリサーチャー、最相葉月を理系専門校の東京工業大学が招聘したのは文字通り理にかなっている。

『理系という生き方』はその講義録であると同時に、「生涯を賭けるテーマをいかに選ぶか」という著者自身のテーマの中間報告でもある。理系に限らず誰もが突き付けられているテーマであると同時に、誰がやっても正解が得られるという一般解がおよそあり得ないテーマでもある。よくぞこれほど困難なテーマを選んだものだと、このテーマを棚に上げ続けて今に至った私は感嘆せざるを得ない。

 この難題に取り組むに当たって著者がとった方法は字義通りのresearch、再検証である。先人たちの業績を丁寧に調べ上げていくことを通して誰もが知っている業績の誰も知らなかった過程があらわになっていく様は実に圧巻で、進路は決まっていてもテーマは決まっていない受講者にはこの上ないヒントになる。

 だからこそ最も単純な動機が抜けていることが気にかかる。「そのテーマで食えたから」。実はこれこそが一般解に最も近似していることは、論文数減少という統計が悲しいほど示唆している。続編を期待したい。「理系という食い方」を。

新潮社 週刊新潮
2018年3月15日花見月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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