『文庫 カッコウはコンピュータに卵を産む 上』
- 著者
- クリフォード・ストール [著]/池 央耿 [訳]
- 出版社
- 草思社
- ジャンル
- 文学/外国文学、その他
- ISBN
- 9784794223098
- 発売日
- 2017/12/06
- 価格
- 990円(税込)
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
『文庫 カッコウはコンピュータに卵を産む 下』
- 著者
- クリフォード・ストール [著]/池 央耿 [訳]
- 出版社
- 草思社
- ジャンル
- 文学/外国文学、その他
- ISBN
- 9784794223104
- 発売日
- 2017/12/06
- 価格
- 990円(税込)
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
ハッカーの存在を知らしめた約30年前の作品
[レビュアー] 野崎歓(仏文学者・東京大学教授)
【前回の文庫双六】IT技術者たちの壊れた日々に圧倒――北上次郎
https://www.bookbang.jp/review/article/548842
『ビッグデータ・コネクト』では凄腕ハッカーが活躍する。ハッカーなる人種の存在を世に知らしめた先駆が、このストールによるノンフィクションではないか。内容はまったくアクチュアリティを失っていない。
1986年、コンピュータ黎明期のカリフォルニアが舞台。若き天文学者ストールはローレンス・バークレー研究所に職を得て、所内コンピュータのシステム管理も任される。着任直後に発覚したのが、前月分の使用時間に対し、全所員の払った使用料金が「75セント」だけ足りないということだった。だれかがこっそりただで使ったのか?
ところが、誤差の範囲内かと思えるようなわずかな金額の裏に、途方もないスケールのハッキング犯罪がひそんでいたのである。
ストールは本業の天文学研究そっちのけで、得体のしれない相手をつかまえる作戦に深入りしていく。長髪にTシャツ、ジーンズで自由人気質の青二才が、それまで想像上の存在でしかなかったFBIやCIAのこわもて連中の協力を仰ぎながら懸命の名(迷)探偵ぶりを繰り広げる。約1年間の記録だが、彼がついに「大人」になるまでの成長記としても楽しめる。
この本を読んでわかるのは、「ハッカー」という言葉が最初、犯罪者を意味してはいなかったということである。それどころか「ソフトウェアの天才」や「創造力豊かなプログラマー」たちは、誇りをこめて「ハッカー」と自称していたのだ。だが人々はたちまち、高度な知識を悪用する侵入犯をそう呼ぶようになる。
性善説にもとづいて開発されていたネット空間に、邪悪な者たちが跳梁跋扈する。そこには人間という動物の業の深さが浮き彫りになるかのようだ。
親本から26年後に出た文庫版には、目下「クラインの壺」作成に凝っているという著者の愉快な近影が載っている。コンピュータの闇を知ったのちも、彼がいきいきとした探求心を失うことはなかったらしい。