今月の文芸誌 天皇制の諸問題に意表を突くやり方で切り込んだ出色作

レビュー

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天皇制の諸問題に意表を突くやり方で切り込んだ出色作

[レビュアー] 栗原裕一郎(文芸評論家)


文學界2018年3月号

 文芸誌3月号は珍しく見所が多かったので早足で。

 小谷野敦「とちおとめのババロア」(文學界)が、天皇制にまつわる諸問題に意表を突くやり方で切り込んだ挑戦的かつ時宜を得た作で出色だった。女子大の仏文准教授・福鎌純次がネットお見合いで相手を探していると、徳田秋聲を研究しているとプロフに書く女・雍子に出会(でくわ)す。雍子と接触した純次は何度目かのデートで彼女から誘われ寝るのだが、事後、自分は実は皇族なのだと告白される。そこから結婚に至るまでの顛末に天皇制に由来する問題が盛り込まれるという趣向だ。ラストで雍子が漏らす「やっと人権が手に入った」に主題は集約される。

 木村紅美「羽衣子」(すばる)は、五十路を超えた独身女性が孤独から狂気へ陥っていく様を、白鳥とその鳥に対する彼女の妄執で象徴してみせた苦い寓話だ。同誌掲載の八木寧子による木村の芥川賞候補作『雪子さんの足音』の書評がこの作の理解にも有効である。『群像』に掲載の木村と四方田犬彦(大学の師弟だそうだ)の対談もあわせて。

 松尾スズキ「もう『はい』としか言えない」(文學界)も世相を映した作だ。浮気がばれ妻に自由を奪われた初老の俳優・文筆家の海馬五郎の元に、フランスから「自由な精神」を称揚すると謳う怪しい賞の報せが来る。妻から逃れられる機会を逸すまじとフランスに飛んだ五郎は彼の国の裏側の真実を目撃する。移民街をめぐる描写が冴えていて、荒唐無稽な設定とオチはそのための器に見えてしまうが、ツーマッチを読ませる話術がむしろ肝か。

 小説以外では、石原慎太郎西村賢太の対談「文壇と豊饒な時代の記憶」が、まさに掲載誌である『群像』に二人とも干されていたという話から始まりあれこれぶちまけていて、内輪への配慮と忖度で成り立っている「文壇」を笑い飛ばすかのようで痛快。『すばる』が生誕120年の井伏鱒二を特集していたが、井伏の影は他誌にも見られた。『新潮』の52人の日記リレー、『文學界』の岡崎京子特集も力の入ったものだったが、文学では特集が立たない実情の吐露にも映る。

新潮社 週刊新潮
2018年3月15日花見月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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