敬語には5種類ある。いざという時に困らないように「敬語の基本」を知っておこう

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敬語には5種類ある。いざという時に困らないように「敬語の基本」を知っておこう

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

「この言い方、正しかったっけ?」「こういうときは、どういう言葉を使えばいいんだ?」などなど、敬語はなにかとビジネスパーソンを戸惑わせ、悩ませるもの。しかし使い方を誤るとトラブルに結びつくこともありえるからこそ、しっかりとした知識を身につけておきたいものです。

そこできょうは、『これだけは知っておきたい「敬語」の基本と常識』(株式会社ザ・アール著、フォレスト出版)をご紹介したいと思います。著者は、1982年に設立された人材総合プロデュース会社で、長年にわたりビジネスマナーやコミュニケーションを教えてきた実績があるそうですが、そんななかで気づいたことがあるといいます。

新入社員はもちろん、企業の幹部クラスでさえ、「じつは敬語の使い方が間違っていないか心配」「ボキャブラリーが少ない」など、言葉遣いの不安を口にします。苦手なまま、ただ経験を重ねるだけでは磨かれないのが言葉のスキル。今や、外国語を学ぶように、「正式な日本語」をきちんと学び、教養として身につけるべき時代といえるでしょう。(「はじめに」より)

そこで本書は、「きちんと自分の頭で考えて、その場に合った言葉遣いが組み立てられる」レベルを目指した内容になっているのだといいます。きょうは第1部「正しい敬語をマスターしよう」内の第1章「敬語の仕組みを知ろう」に焦点をあて、敬語の基本を再確認してみたいと思います。

敬語の重要性 — きちんとした言葉遣いは社会人の基本

「敬語は面倒だから使いたくない」と考えている人もいるかもしれません。しかしそんな人でも、お店の店員さんから「いらっしゃい。なに食べる?」と言われたらムッとするのではないでしょうか。あるいは後輩から「仕事教えてよ」と頼まれたら、その人の常識を疑いたくなるはず。

文化庁が実施している「国語に関する世論調査」の2014年度の調査では、「今後とも敬語は必要である」という回答は全体の98%に達しているのだとか。また75%の人が、「きちんとした言葉遣いができないと社会から認めてもらえないという雰囲気を感じる」と答えているといいます(2016年度調査)。

さらに「敬語は簡単でわかりやすいものであるべき」(26%)よりも、「敬語は伝統的な美しい日本語として、豊かな表現が大切にされるべき」(64%)という意見が大きく上回っているそうです(2015年度調査)。

人間関係が複雑化し、価値観が多様化している現代社会においても、人と人とが円滑なコミュニケーションを築くために、敬語の重要性はますます大きくなっているということ。(12ページより)

敬語の役割と機能 ー 言葉遣いに関する不安を解消しよう

コミュニケーションにおける敬語の役割は、単に「敬意の表出」とは限らず、次のような機能もあるのだといいます。

1. 相手を尊重することを表す → 目上の人を立てる

2. 相手に対する改まりを表す → 公の場でのスピーチでフォーマル感を演出する

3. 相手に対して隔てを示す → 知らない人に対して心理的距離をとる

4. 自分と他者の関係性を示す → 上下・親疎・内外の関係が反映される

5. 行為の主体や対象を暗示する → 「誰が」「誰に」を省略できる

6. 使い手の品格や教養を示す → 敬語を使いこなせる=信用できる人をアピールする。

(14ページより)

つまり、敬語を使うべき場面で使わないと、「相手に対する敬意がない」「場をわきまえない」「馴れ馴れしい」「立場が不明」「主語が誰だか紛らわしい」「教養のない人で信用できない」などと受け止められる恐れがあるということ。

日本語を正しく効果的に使ううえで、敬語は避けては通れないもの。逆に言えば、敬語をマスターできれば、言葉遣いに関する不安の大半は解消できると著者は言います。(14ページより)

敬語の仕組みを理解しておこう — 尊敬語・謙譲語・丁寧語の使い分け

敬語の仕組みとして押さえておくべきは、「敬語の向き(敬語の向かう先)」が2つあること。まず1つは、話の登場人物に対しての敬意(もしくはへりくだり)を示すもの。そしてもう1つは、目の前の相手(聞き手)に対して敬意を示すものだといいます。

たとえば「これから山田社長がいらっしゃいます」という言葉では、「山田社長」「いらっしゃる」という部分が「話の登場人物」である山田社長への敬意。山田社長を高める尊敬語が使われているわけです。

一方、「いらっしゃいます」の文末の「ます」は、山田社長ではなく、話を聞いている相手への直接の敬意。丁寧語を使わず「山田社長がいらっしゃる(わよ)」となると敬意(配慮)がなくなり、対等(もしくは相手が目下)か親しい間柄の話し方になるわけです。

いわば尊敬語(相手を立てる)と謙譲語(自分側を下げる、へりくだる)が「話題の人物に対する敬語」にあたり、丁寧語が「聞き手に対する敬語」にあたるということ。

なお、目の前の相手を話題にする場合は、「(あなたは)お昼ご飯を召し上がりましたか?」というように、「召し上がる」という尊敬語と、「ました(か)」という丁寧語を使って相手に敬意を示すことが可能。

また、自分を主語にしてはなす場合は、「(私は)明日伺います」のように、「伺う」という謙譲語を使って相手に対してへりくだるとともに、「ます」という丁寧語でも敬意を伝えることができるそうです。しかし当然ながら、尊敬語を自分や自分側につけることはできませんし、相手の行為・動作を謙譲語で表すことも基本的にはしないもの。(16ページより)

敬語には5種類がある — 謙譲語と丁寧語をさらに細かく分類

このように、「尊敬語」「謙譲語」「丁寧語」の3種が敬語の基本だというわけですが、文化庁が2007年に発表した「敬語の指針」では、敬語は1.尊敬語、2.謙譲語I、3.謙譲語II、4.丁寧語、5.美化語の5つに分類されているのだそうです。

尊敬語相手の側または第三者の行為・物事・状態などについて、その人物を立てて述べる

(例)いらっしゃる/お持ちになる/ご意見謙譲語Ⅰ自分側から相手側または第三者に向かう行為・物事などについて、その向かう先の人物を立てて述べる

(例)伺う/申し上げる/ご連絡する謙譲語Ⅱ自分側の行為・物事などを、聞き手に対して丁寧に述べる
(例)参る/申す/致す/小社丁寧語語尾を丁寧にして聞き手に敬意を伝える
(例)〜です/〜ます/〜でございます美化語話し手が、物事を美化して述べる
(例)お花/ご飯/お料理

ちなみに、謙譲語のIとIIの違いは大きいのだとか。Iは自分の行為の関係先を高め、IIは自分の行為などを丁重に述べるだけで、特定の人への敬意はないのだそうです。

たとえば「明日伺います」と「明日参ります」の「伺う」「参る」はどちらも「行く」の謙譲語ですが、「伺う」(謙譲語I)は、「あなた」や「目上の人」など立てるべき人のところへ行くときにだけ使われるもの。

「行く先」の人物に敬意が向かうわけで、「御社に伺います」「山田先生のご自宅に伺いました」のように使うということ。一方、「参る」(謙譲語II)は「行く先」に敬意は向かわないので、自宅やディズニーランドなど、どこへ行くときでも使うことが可能。

謙譲語Iの「行為の向かう先」には、下記のように「(対象者)に向かって」「(行為者に)対して」のほか、「(対象者)のために」や「(対象者)から」「(対象者)を」などというケースも含まれるといいます。

(あなたのことを)お待ちする

(お客さまに)お茶をお出しする

(あなたのために)お荷物をお持ちする

(先生から)お話を伺う

(22ページより)

さらに上記の表を見ればわかるように、5分類では丁寧語から美化語を独立させています。ちなみに美化語とは、自分自身の言葉を飾ったり、ものごとを美化して述べたりする表現。「お正月」「ご飯」のように、名詞の前に「お」や「ご」をつけるわけです。美化語には、特に相手や他者への敬意は含まれないため、使いすぎると違和感を与えることになるため注意が必要。(20ページより)

こうした基本を踏まえたうえで、以後は「相手や状況に応じた言葉の選び方」「依頼・断り・お詫びのていねいな伝え方」「ビジネスシーンに応じた敬語表現」などがわかりやすく解説されます。練習ドリルも豊富に用意されているため、敬語の基本を無理なく身につけることができるはず。敬語の使い方で悩むビジネスパーソンの、心強い味方だと言えるでしょう。

Photo: 印南敦史

メディアジーン lifehacker
2018年3月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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