『にんげんぎらい』
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人間嫌い?
[レビュアー] 大西智子(作家)
人間が嫌い。でも孤独はもっと嫌い。そう話したのはある作家さんだった。私はその言葉を聞いて、まさしくそれだと思った。拙作『にんげんぎらい』の主人公、まり江のことである。他人を疎んじながらもひとりでは生きていけないと感じているまり江は、そのジレンマに悩み続けている。
好きと嫌いはほとんど同義だと思うことがある。憎い相手のことを考えるとき、つぶさに、執念深く、その相手のことを隅々まで思い浮かべる。まるで恋焦がれているように、ずっと相手のことが頭から離れない。
好きの反対は嫌いではなく無関心だと聞いたときは、非常に納得できた。関心のないものは嫌いになりようがない。なにかのことを嫌いだ嫌いだと叫ぶたびに、本当は好きだ好きだと叫んでいる。よくある表現だが、嫌いは好きの裏返しだ。
好きだけど嫌い。嫌いだけど好き。そんな割り切れない感情や、日々感じている「不安」や「不満」を積み上げていったら、この小説ができあがった。
自分に子どもができるまで、ママ友といえば「怖い」というイメージしかなかった。それは過去にママ友がらみの殺人事件がセンセーショナルに報じられたり、「ようこそ、ママ友地獄へ」と煽るドラマが話題になったりしたせいだと思う。
私の経験では、意地悪なママ友も我が物顔でしきるボスママもいなかった。しかし実際どこかにはあるのだろう。テレビでしか見たことのない「ママ友地獄」が。保育園ではなにごともなくても、子どもが小学校、中学校に上がればまた新たな「不安」や「不満」が出てくる。きりがない。
ママ友のことだけではない。他にも夫のこと子どものこと仕事のこと、三十も半ばを過ぎれば健康にだって気を遣わねばならなくなってくる。
そんな終わりのない倦(う)んだ日々を過ごす、ひとりの主婦、まり江。口下手で、人とうまく距離をとることのできない、嫌われ者のまり江の、内なる叫びを聞いていただきたい。