『消えた断章』
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「二十過ぎればただの人?」
[レビュアー] 深木章子(作家)
このたび、光文社さんから、書下ろしの新作長編『消えた断章』を刊行する運びとなりました。
この作品は、私にとって初めてとなる誘拐ものなのですが、そこはひねくれ者の作者のこと。今回も、身代金受渡しや、被害者救出をめぐるサスペンスといった直球勝負とは少々異なる本格ミステリになっています。
もし幼い子供を誘拐された父親が、身代金要求の電話をかけてきた誘拐犯に、きっぱり「断る!」と返事をしたとしたら……。その後、その家族と周囲には、どんなドラマが展開するのだろう? 本書は、そんな発想から生まれました。
物語は、十年前に起きた誘拐事件を発端として、かつて被害者だった少女の断片的な記憶をもとに、あらたに白骨死体で発見された男児の死の謎に迫っていきます。
探偵役を務めるのは、元県警捜査一課の刑事を祖父に持つ大学四年生の君原樹来(きみはらじゆらい)。推理作家志望の彼こそは、私の最初の短編集『交換殺人はいかが? じいじと樹来とミステリー』で、おませな安楽椅子探偵だった樹来君にほかなりません。
当時は淋しいやもめ暮らしだったじいじも、いまは老人ホームで穏やかに余生を送る身。今回活躍するのは、樹来の三歳年下の妹で、才色兼備(?)の麻亜知(まあち)ということになりますが、やはり刑事事件となれば、頼りになるのは祖父。ふたりの絆は深まるばかりです。
なお、小学生探偵の樹来が、「密室」や「幽霊」「ダイイングメッセージ」など、元刑事の昔語りにバッサバッサと斬り込む『交換殺人はいかが?』も、この四月、やはり光文社さんから文庫になりますので、こちらも併せてお読みいただければ幸いです。
さて、安楽椅子探偵から脱皮して、本当の探偵ごっこを始めた樹来君。ことわざにあるように、かつての名探偵も、「二十過ぎればただの人」になっていないといいのですが。