吉永小百合が綴る映画愛 その悩みと葛藤

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私が愛した映画たち

『私が愛した映画たち』

著者
立花 珠樹 [編集]/吉永 小百合 [著]
出版社
集英社
ジャンル
芸術・生活/演劇・映画
ISBN
9784087210224
発売日
2018/02/16
価格
821円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

映画を愛した女優 その悩みと葛藤

[レビュアー] 碓井広義(上智大学文学部新聞学科教授)

 約60年の女優活動と120本の映画作品。自身の歩みと出演作について語ったのが吉永小百合『私が愛した映画たち』だ。

『キューポラのある街』(62年、日活)は、鋳物職人の娘・ジュンの目を通して貧困、親子、友情などを描いた社会派作品だった。撮影前、浦山桐郎監督から「貧乏について、よく考えてごらん」と言われ、「私の家も貧乏です。(中略)自信があります」と答える。それに対して「下町の貧乏っていうのがあるんだ」と監督。2人の人柄が伝わってくるエピソードだ。

 また広島の被爆青年(渡哲也)と婚約者の悲劇『愛と死の記録』(66年、同)では、原爆ドームを象徴的に映したシーンと被爆者のケロイドの映像をカットするよう会社が命令を下す。撮影所の芝生で、スタッフと一緒に黙って座り込みをする姿が浮かんでくる。

 さらに本書で興味深いのは、スターであり人気女優であることの裏で抱えていた悩みや葛藤だ。たとえば大学も卒業し忙しい日々が続く中、突然声が出なくなってしまう。当時、日活はロマンポルノの製作に乗り出し、その影響でドラマ出演が増えていた。過労だけではないストレスが原因だが、山田洋次監督『男はつらいよ柴又慕情』(72年、松竹)に救われる。

 他にも市川崑、深作欣二、高倉健、松田優作といった映画人との逸話が並ぶ。吉永小百合はまさに「映画を愛した」女優であると同時に、映画に愛され続ける女優でもあったのだ。

新潮社 週刊新潮
2018年3月22日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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