『トリフィド時代』
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冷戦期に描かれた異色のSF小説
[レビュアー] 川本三郎(評論家)
【前回の文庫双六】ハッカーの存在を知らしめた約30年前の作品――野崎歓
https://www.bookbang.jp/review/article/549155
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『カッコウはコンピュータに卵を産む』という書名があらわしているようにカッコウという鳥は、別の鳥の巣に卵を産みつけ、その鳥に子供を育てさせる。ちゃっかりしている。
それで思い出すのはイギリスのSF作家ジョン・ウィンダム(一九〇三─六九)の『呪われた村』。
原題は“The MidwichCuckoos”(ミドウィッチ村のカッコウ)。
イギリスの小さな村で異変が起きる。村の十二人の女性が一度に全員、妊娠して子供を産む。
この子供たちが成長してゆくと、次々に村に災厄をもたらすようになる。
宇宙から来た謎の生き物が、まるでカッコウのようにミドウィッチ村の女性たちに“種子”を植えつけたことが分かってくる。
異星からの侵略を描いた異色のSF小説。発表された一九五七年は米ソ冷戦時代で、ソ連への恐怖が暗示されてもいた。
この小説の映画化、「未知空間の恐怖 光る眼」(60年)は、現在、カルト・ムービーになっている。目が光る子供たちが不気味。
近年はほとんど読まなくなってしまったが、若い頃はSF小説をよく読んだ。
とくにウィンダムは面白かった。十二歳の少年が宇宙から来た知性体と交流する『宇宙知性チョッキー』など今にして思えば、スピルバーグの「E.T.」を先取りしていた。星新一が訳した『海竜めざめる』も宇宙からの侵略ものだった。
ウィンダムの出世作といえば『トリフィド時代』(51年。早川書房版は『トリフィドの日』)。
いわゆるディストピアもの。副題に「食人植物の恐怖」とあるように、トリフィドと呼ばれる新種の植物が、異常に繁殖してゆく。
三本足で歩き始め、長い蔓から出る毒で次々に人間を殺してゆく。
このトリフィド、実はソ連が秘かに作り出した食用植物。それが怪物化し、人間を襲うようになった。
ここにも冷戦時代が反映されていた。