「1分間悟り」で、選択・決断で迷わないようになろう
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
たとえば「あの言い方が気にさわる」とか、「あのやり方は納得できないとか」、誰かに対して嫌な思いをすることは誰にでもあるもの。多くの場合は、少し時間が経てば「お互いさまだから仕方がない」と納得することになるわけですが、やがてまた、憤慨したくなるような事態が身に降りかかったりもします。
東京下町の住職である『1分で悟り』(名取芳彦著、ワニブックス)の著者も、それは同じだったよう。しかし30代前半のころ、「何度もいやな思いをしているのに、そのまま放置して、懲りもせずに不愉快な思いをくり返して人生を送るのはもったいない」と思ったのだそうです。
そしてそれ以来、「どうして私は、あの言い方(やり方、考え方)が気に入らないのだろう」と自分の感じ方をチェックし、「どうしてあの人は、あんな言い方をしてしまうのだろう」と相手を理解しようと努力するようになったのだとか。
その結果、「なるほど、こういうことか」と心がどっしり落ち着き、すっきり、さっぱりすることができるようになったのだといいます。つまり著者の言葉を借りるなら、それは日常のなかの小さな悟り。気づき、納得することで、心を乱さずにすむようになるというわけです。
ちなみにその手法は、心穏やかに生きるために説かれた、2500年続く仏教の考え方そのもの。仏教はだてに長く続いているわけではなく、どんなことでも仏教で割るとあまりは出ないからこそ続いているのだと著者は主張しています。
本書は経典に書いてあることではなく、日常を仏教の教えで割った結果、私が気づいたこと、わかったことの中で、あなたにお伝えでき、あなたも気づけるであろう日常の中の「悟り」を取り上げました。(中略)取り上げたものの中には「ズバリ解決!」というものもあれば、「ここまでわかれば、あとは実行あるのみ」と、やるべき課題を残しているものもあります。(中略)仁王さまのように眉間に皺を寄せた顔でなく、気軽に楽しんで、読みすすめていただければ幸いです。(「はじめに 『小さな悟り』ですっきりさわやかに生きる」より)
そんな本書のなかから、きょう注目したいのは2「選択・決断の迷い」を捨てることに焦点を定めた「きっぱりの悟り」。迷いをぬぐい去るためのコツを、3つご紹介することにしましょう。
「これでもいい」と動き出せば迷いは消える
多くの場合、私たちがつらい気持ちになるのは、自分の都合どおりにことが進まないときであるはず。食べたいときに食べ、寝たいときに寝られるというようなこととは違って、相手が存在する人間関係や仕事などは、なかなか都合どおりにいかないものだからです。
著者によれば、自分の都合の減らし方としてまず有効なのは、「お先にどうぞ」のひとことによって心を穏やかな状態に戻すこと。そしてもうひとつは、「これがいい」ではなく、「これでもいい」と割り切って物事にあたること。
「これがいい」のにまわりの都合が許してくれない状況において、「ではどうしようか」と迷っている間は、人は動けないものだというのです。
行動の元は決断力ですから、つまりは“決めないと動けない”ということ。そして動き出すためには、ひとりで決断する勇気が必要。仕事を選ぶ、人間関係をつくる、恋愛をする…などなど、自分がなにをしたいのか、どうなりたいのか、自分が目指す方向(目標)をはっきりさせて決断することが大切だということです。そしてそんなとき、「これがいい」とひとつの方向に固執せず、「これでもいい」と決めるのも勇気だという考え方。
でも、これは難しいことではなく、私たちが毎日やっていることでもあるといいます。たとえば、いま着ている服は、「これがいい」、もしくは「これでもいい」と自分で決めたものであるはず。
同じように、こうした日常的な出来事を通じて決断力を高めることによって、苦悩やストレスをかなり減らすことができるということです。(52ページより)
1分間悟りレシピ:黙想し、次のことを行いましょう。
1:自分の都合通りになっていないことを思い浮かべる。
2:「これがいい」ではなく「これでもいい」と考えほかの選択肢を探す。
3:「これでもいい」と決めて行動に移す自分を想像する。
「自分の都合通りでなくても平気だ」と思えたら1分間悟り完成です。
(53ページより)
こだわりを手放して心の自由を取り戻す
「こだわり」という言葉が“細かいところにまで注意を払い、あることの価値を追求する”という意味で使われはじめたのは、昭和の後半に入ってからではないかと著者は推測しています。
というのも、もともと「こだわり」は執着・固執・拘泥と同じ意味で、「ひとつのことに執着して離れられない」という悪い意味で使われる言葉だったから。
そのため、心おだやかに生きたいのであれば、「こだわらないほうがいい」というのです。特に日常生活においては、こだわりから離れたほうが、ずっと心がおだやかでいられるといいます。
世の中のすべては無常という原則があるため、自分も周囲もどんどん変化してしまうなか、「こだわり」を手放さないと大変なことになるというのです。なぜなら「こだわり」と「自由」は、対極にあるものだから。
晴れにこだわっていれば、雨や曇りの日が憂鬱になるもの。しかし「お天道さまだって休みたいときもある」と思えば、曇りや雨も楽しめることになるでしょう。また、若さにこだわれば、歳をとるよさが見つけられません。自分の損得にばかりこだわれば、友人を失うことにもなります。
いわば、こだわればこだわるほど、自由がなくなっていくということ。そのことを著者は、「外の世界は四季折々の自然の変化があり、人情味もあふれているのに、狭い檻の中をウロウロしている動物園の動物のようなもの」だと表現しています。
そういう意味でも、自分の「こだわり」の弊害について考えてみると、「こんなこだわりはないほうがいい」と心を自由な状態にしておけることがたくさんあるものだということ。(66ページより)
1分間悟りレシピ:黙想し、次のことを行いましょう。
1:これは譲れない、という自分のこだわりをあげてみる。
2:こだわりのせいで生じている不自由をあげてみる。
3:こだわりを捨てた自分をイメージする。
「こだわりを手放せば自由だ」と思えたら1分間悟り完成です。
(67ページより)
二者択一で迷ったらどちらを選んでも正解
たくさんの選択肢からひとつを選んでいくという局面は、仕事においても日常生活においても多いもの。そして「選択肢が多い」と迷ってしまって決められないため、消去法で最終的に2つに絞り込むことも多いのではないでしょうか。
そこまでいけば、あとはしめたものだと著者。考えた末に残った最後の2つなので、どちらを選んだとしても、その理由を自分なりに正当化できれば、それを「正解」とすることができるわけです。
ちなみに著者の場合は、選んだもので一生懸命になれそうか、心がおだやかになれるか、責任が持てるかなどを指標としているそうです。
ところが、二者択一まで来てまだ悩んでいると、物事は前に進まないもの。別な言い方をすれば、その段階まで来たら、どちらを選んでも間違いではないし、唯一絶対の正解はないと考えたほうがいいそうです。
「二者択一で迷った場合は、どちらを選んだとしても、その時はそれが正解である」ということ。そう覚悟できないと、いつまでも迷い、どんどん時間が過ぎてしまうというわけです。(72ページより)
1分間悟りレシピ:黙想し、次のことを行いましょう。
1:絞り込んで最後に残った二つはどちらも正解である。
2:どちらを選んでも、ことが前に進めばそれでいい。
3:迷ったときはサイコロかボールペンにお任せだ!
「選んだら、あとは楽しむだけだ」と思えたら1分間悟り完成です。
(73ページより)
1項目1見開きの構成になっており、上記のように各項の終わりには、悟りに至る気づきのプロセスを料理の手順風にまとめた「1分間悟りレシピ」も。そのため肩肘を張ることなく、日常生活における「悟り」のコツを身につけることができるわけです。
ついイライラしてしまうという方は、手にとってみてはいかがでしょうか?
Photo: 印南敦史