『ファミリー・ライフ』 アキール・シャルマ著

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ファミリー・ライフ

『ファミリー・ライフ』

著者
アキール・シャルマ [著]/小野 正嗣 [訳]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784105901431
発売日
2018/01/31
価格
1,944円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『ファミリー・ライフ』 アキール・シャルマ著

[レビュアー] 本郷恵子(中世史学者・東京大教授)

家族であり続けること

 アジェが8歳の時、一家はインドからアメリカに移住した。戸惑いつつも新しい生活を築く中で、兄のビルジュは名門校への合格を果たし、両親の誇りとなる。だが入学を目前に控えたある日、ビルジュは突然の事故で脳にひどい損傷を負ってしまう。意思疎通のできなくなった息子を、母は献身的に介護し、なりふりかまわず病院や介護施設と闘う。父は耐えられずに飲酒に走る。両親の確執は次第に深くなる。

 回復の見込みのないまま家に戻ってきた兄を中心に、一家の暮らしは回っていく。周囲のインド人コミュニティは、彼らを家族愛の手本のようにあがめるが、内実はすさまじい罵(ののし)りあいの連続だった。

 家族は難しい。とくに子供は、家族間のさまざまな感情や力関係を、ものごころつく前から長年にわたって刷りこまれる。兄が事故に遭った時、アジェは10歳。彼は、兄をあとまわしにして自分自身の人生について考えようとしていることを罪悪と感じながら、最も多感な時期を過ごしたのだ。

 この一家にとって家族であり続けることは、もはや強迫観念となっているようにみえる。だが、負の感情が交錯する合間に、互いを大切に思う気持ちがはっきりとあらわれる瞬間がある。それは救いといえるのだろうが、一方で家族からの解放を阻む巧妙な呪いでもある。

 アジェは作者自身であり、読者は彼を通して家族の歴史をたどる。だが兄・母・父、それぞれに語らせることができたなら、四つの異なった物語が生まれただろう。幸福は単調だが、不幸は複雑で多様なのだ。

 夜道を歩くために、母はアジェに懐中電灯を手渡す。インドにいた頃、それは兄に渡されていたものだ。アジェはもうすぐ大学に進学して家を離れる。アジェが照らす細く揺れる光が、いつか家族を導く光となるよう祈らずにはいられない。小野正嗣訳。

 ◇Akhil Sharma=インド・デリー生まれ。8歳で家族と米国移住。投資銀行に勤務後、創作に専念。

 新潮社 1800円

読売新聞
2018年3月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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