『怖い女 怪談、ホラー、都市伝説の女の神話学』 沖田瑞穂著

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怖い女

『怖い女』

著者
沖田瑞穂 [著]
出版社
原書房
ISBN
9784562054725
発売日
2018/01/29
価格
2,484円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『怖い女 怪談、ホラー、都市伝説の女の神話学』 沖田瑞穂著

[レビュアー] 加藤徹(中国文化学者・明治大教授)

恐怖と憧れが同居

 神話の時代いまだ終わらざるなり。太古の昔も、21世紀の現代も、人は母胎の暗闇から生まれ落ち、性や病気、老化など自然の摂理に翻弄(ほんろう)され、最期はふたたび底なしの暗闇にのみ込まれる。ドロドロとした母胎の暗闇は怖いが、いつか帰るべき故郷でもある。恐怖と憧れの同居。本書は、この内臓感覚的なゾクゾク感に満ちた「怖い女」たちの系譜を明らかにする。

 都市伝説の「口裂け女」も、太古の女神イザナミも、もとは美女だったが、後に恐ろしい容貌(ようぼう)となり、人を追いかけて命をのみ込む怖い女になった。神話学では、ユニコーンの角や天狗(てんぐ)の鼻を力強い男性器のシンボルと見なす。口裂け女の口は……この先は本書にゆずる。著者は、世界各地の民話の女妖怪や、現代日本の創作作品も援用し、のみ込む女の本質を分析する。

 生命を回収する箱の話は、女性の子宮と関係がある。ギリシャ神話のパンドラの箱、民話の玉手箱、ネット怪談のコトリバコ、美内すずえ作の漫画『妖鬼妃伝』、京極夏彦作の小説『魍魎(もうりょう)の匣(はこ)』、等々。現代日本のホラー作品『呪怨(じゅおん)』『リング』『着信アリ』の怖い女たちも、神話や民話の類話、実際に起きた猟奇事件の女性犯人などと比較され、分析される。

 著者はインド神話、比較神話を専攻する研究者である。世界各地の神話から現代のサブカルチャーまで縦横無尽に語る視野の広さには驚かされるが、語り口はエッセー風で、一般の読者にもわかりやすい。圧巻は「あとがき」だ。著者は、自分の母親との個人的な事情を簡潔に述べる。あえて内容の紹介はひかえるが、神話の時代も現代も変わらぬ人間の宿命が、著者に本書を書かせたことがわかる。

 本書を読み終え、ふと思った。『怖い男』という本は、ありうるだろうか。怖い男は、避ければいい。しかし怖い女からは、だれも逃げられない。人はみな、残酷で優しい母なる存在から生まれ、その女神の闇に還(かえ)るのだから。

 ◇おきた・みずほ=1977年生まれ。専門はインド神話、比較神話。著書に『マハーバーラタの神話学』。

 原書房 2300円

読売新聞
2018年3月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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