『消えたベラスケス』 ローラ・カミング著

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消えたベラスケス

『消えたベラスケス』

著者
五十嵐 加奈子 [訳]/Cumming Laura [著]/カミング ローラ [著]
出版社
柏書房
ISBN
9784760149735
価格
2,700円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『消えたベラスケス』 ローラ・カミング著

[レビュアー] 宮下志朗(仏文学者・放送大特任教授)

 ヴィクトリア朝時代、ロンドン西方で書店兼印刷所を営むジョン・スネアは絵が好きな「目利き」。オークションの下見で、「推定ヴァン・ダイク作」のチャールズ一世の肖像画をベラスケスの知られざる傑作ではと直感、安値で落札する。来歴を調べて出版し、作品も公開した。だがこれが裏目に出て、元の所有者の末裔(まつえい)から、「かつて盗まれた作品を返せ」と提訴され、さすらいの人生が始まる。美術館なき時代の展覧会はオークションで、前売り券が発売されていたことなど、当時の美術鑑賞の実際もよくわかる。

 本書のもう一つの魅力は、差し挟まれるベラスケス論のすばらしさ。手紙も日記も残さず、下絵なしに描き上げて、署名もあまりしない「寡黙な革命児」。天才宮廷画家は作品のなかに消える。一枚の絵とその所有者の運命をミステリー風に描きつつ、輝きながらうつろうベラスケス絵画の秘密を探った傑作。『The Vanishing Man(消える男)』という英国での原題が、米国版では『The Vanishing Vela´zquez(消えるベラスケス)』に変わるのも興味深い。五十嵐加奈子訳。(柏書房、2500円)

読売新聞
2018年3月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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