『映画の中にある如く』 川本三郎著

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映画の中にある如く

『映画の中にある如く』

著者
川本 三郎 [著]
出版社
キネマ旬報社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784873764580
発売日
2018/02/15
価格
2,700円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『映画の中にある如く』 川本三郎著

[レビュアー] 尾崎真理子(読売新聞本社編集委員)

行き届いた道案内

 18年も続く「キネマ旬報」の連載「映画を見ればわかること」第5集。

 〈鉄道、クラシック音楽、あるいは猫。そうした細部から映画のなかに入り込む(中略)細道を見つけて、森のなかを歩くように映画を見る〉。こんな流儀があとがきにある通り、難解な理論とも点数付けとも無縁の、穏やかな批評文だ。

 しかし、氏の中にある記憶の「森」は、映画と文学と社会、日本と海外の作品を無数の回路でつなぐ、果てしない魔法の森。ネットで検索しても決して出てこない、独創的で多面的なリファレンス(参照)力に圧倒され、魅了される。

 たとえばある回では、年の離れた相手と実父と「あたし」の3人暮らしを描いた、タナダユキ監督の近作「お父さんと伊藤さん」の紹介から、「さん」が醸し出す効果へと話が向かう。「さん付け」の源流は昭和初期の林芙美子著『放浪記』あたりだと示され、続いて成瀬巳喜男監督の「妻」は林の『茶色の眼』が原作で、この映画に登場する戦争未亡人「相良さん」を演じた丹阿弥谷津子は、〈高峰三枝子以上に素晴しかった〉と回想が入る。

 さらに話は原田康子著『挽歌』に及び、妻子ある建築家の「桂木さん」と若い恋人役の久我美子が〈しのび逢(あ)いをする店は、名曲喫茶(懐しい!)〉。そこで流れるのはヘンデル。同じ曲が西川美和監督の「永い言い訳」でも最後に流れて、その明るさに連れ合いを亡くした自分も救われた――と、行き着く。

 これほど密度濃い連載が月2回、原稿用紙6~7枚に手書きでまとめられ、まもなく通算380回に達するとは、驚異的だ。舞台は「キネ旬」なので深掘りに遠慮はないが、映画を知らないわが身でも「わかること」は多く、見たい読みたい作品が次々に現れて、困った。

 公開中の作品と過去作品を自在に往還するこのコラムは、DVDやネット配信に恵まれた今こそ必要な、行き届いた道案内なのである。

 ◇かわもと・さぶろう=1944年東京生まれ。評論家。著書に『白秋望景』『「男はつらいよ」を旅する』『老いの荷風』。

 キネマ旬報社 2500円

読売新聞
2018年3月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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