『渋イケメンの世界』
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南アジアの過酷な労働現場に働く、いぶし銀のような男たち
[レビュアー] 都築響一(編集者)
いちおう住む場所は日本にあるけれど、一年のほとんどをアジアを中心に長い旅で過ごし、その道程で撮影した写真を本にまとめたり、CD-Rにして自分のWebサイトで販売して生計を立てる「旅の写真家」――そんな羨ましすぎる人生を送っているのが三井昌志さんだ。2015年に出版した『渋イケメンの国~無駄にかっこいい男たち~』に続く「渋イケメン」続編写真集がこれ。インドを中心とする南アジアをバイクで走り回り、農村や工場など過酷な労働の現場で働く、いぶし銀のような美しさを湛える男たちを捉えた一冊である。
前作に衝撃を受けてインタビューさせてもらったとき、三井さんはこう教えてくれた――「インドやバングラデシュに住む男たちにとって、イケメンであることが直接何かの役に立つことはありません。いまだに結婚の9割が親同士の決めたアレンジ婚で、婚前交渉はおろか恋愛だって大っぴらにはできないお国柄だから、いくらハンサムであっても、それがパートナー選びに大きく影響することはないんです。そういう、無駄なカッコ良さというか、男前の浪費ぶりが素敵なんです」。
「なぜ働くか」なんて考えたこともない、考える余裕すらない人生を力一杯、まっすぐに生きる男たちを、三井さんはひたすら追ってきた。現場の出会い頭でのスナップ写真のように見えて、実は信頼を得るために何日も通い、最適な光のタイミングを待ってじっくり構えて撮られたポートレートに、深いリスペクトの思いが滲んでいる。これが、勤めを辞めて旅を始めてから写真を自己流で覚えたひとの作品というところにまた驚く。
渋イケメンの定義とは「目力が強く」「モテることを意識せず」「加齢を恐れない」男たちだと三井さんは言う。相手をまっすぐに見ることすらせず、モテることのみを意識し、加齢をなにより恐れる男たちばかりの国に住む僕らに、この写真集は眩しすぎるかもしれない。