ホラーにしてミステリ 『ぼぎわんが、来る』ほか

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正統派のホラーにして、ミステリ読者の心を射抜く

[レビュアー] 若林踏(書評家)

 恐怖と驚きの挟み撃ち。第二二回日本ホラー小説大賞を受賞した澤村伊智のデビュー作『ぼぎわんが、来る』は正統派のホラーにして、ミステリ読者の心を射抜く企みに満ちた小説だ。

 会社員の田原秀樹は愛する妻・香奈が妊娠し、幸せな結婚生活を送っていた。香奈の臨月が近づいた頃、会社に謎の訪問者が現れる。その訪問者は子供に付ける予定の名前を何故か知っていた。秀樹と香奈以外、知るはずのない名前を。

 その後、秀樹の身辺で奇妙な出来事が起こる。訪問者を取り次いだ会社の後輩が謎の傷が原因で会社に来なくなったのだ。さらに秀樹の自宅でも怪異が相次ぐ。秀樹は亡き祖父が恐れていた化け物“ぼぎわん”の仕業ではないかと考え、オカルト系ライターの野崎昆と、霊媒師の比嘉真琴に助けを求める。

 海外の古い伝承にまでさかのぼる怪異の存在、時と場所を選ばず襲い掛かる“ぼぎわん”。古典的な怪談からスプラッターまで、あらゆるタイプの恐怖をありったけ詰め込んだ第一章を経て、第二章以降ではミステリの技法を用いた仕掛けが至る所で炸裂する。恐怖演出のかたわらで、まさかこんな騙しのテクニックが待ち構えているとは。澤村伊智はホラーとミステリ、双方の美味しいところを巧みに盛りこんでみせる作家なのだ。

 ホラーとミステリを跨いで活躍する、と言えば三津田信三である。論理的な謎解きとホラーの融合を常に追求し、新たな可能性を模索し続ける作家だ。『厭魅の如き憑くもの』(講談社文庫)に始まる〈刀城言耶〉シリーズはその試みの成果といえる、著者の代表作である。

 同じくミステリの趣向を持ち込んだホラーで傑作を残している作家として、小野不由美が挙げられる。『残穢(ざんえ)』(新潮文庫)はマンションの一室で起きた小さな怪異の根源を辿る、実話怪談に捜査小説のような興趣を組み合わせた作品だ。謎を追えば追うほど、底なしに恐怖が広がっていく感覚に陥る。怪談集『鬼談百景』(角川文庫)と併読すれば怖さは倍増だ。

新潮社 週刊新潮
2018年3月29日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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